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2009年10月の記事

らす・きあ蛇足話その9 背景画像

 別館のトップ、メニュー、小説掲載ページなどの背景画像は、多少の加工はしていますが、すべて私が撮影したものです。自前だと著作権とか気にしなくていいですものね。
 さすがにアシダカグモさんのリアル写真をいきなり小説ページに訪問される方に見せるわけにはいかないと思い、シルエットだけにしてあります。
 「青池」のモデルになった池はいくつかあるのですが、そのうちのひとつで撮影した写真を、とあるページの背景に使用しています。
 どこにあるかわかりますか?

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第8回

 葺合が売布を見据えるには仰角七十度ほども首を曲げなければならなかったが、身長差や年齢差で態度を変えるやつではなかった。
「パシリに用はない」
 売布は世間知らずの無礼にはつきあわない、というように手を振った。
「淡路らの挨拶は越権行為や。埋もれかけの石ころをわざわざほじくりかえしてつまずいとんねんから、世話ないわな。まあ、自分があのアホどもよりは骨がありそうなんはわかったけど」
 僕は二人の顔を見比べたが、何も言えなかった。同じ中学校の生徒なのに、まるで異世界の話に聞こえた。
「上は、見所のあるやつなら今までのことちゃらにして面倒みたってもええ言うてはる。ありがたい話やろ」
 葺合は不敵な笑みを浮かべた。うすく引き延ばした唇からとがった犬歯がのぞいた。
「ガキのやくざごっこに付きおうてるヒマはない」
「自分の立場、わかっとんか」
 売布はひび割れのような目をさらに細めた。
「住民票も就学届もなしに、いきなり中学校に乗り込んできて生徒になれる思うとんのか。校長は今でも自分の転入を認めてへんで」
「お前らには関係ない」
「善意の申し出や。俺らが監督するよって、先コにいらん面倒はかけん。せやから、おらしたってくれて口きいたるわな」
 売布は、江坂が教師たちに影響力を持っていると言いたいのだ。胸がむかむかしたが、葺合はひるまなかった。
「お前ら子分を増やして大人をびびらそ思とうだけやろ。けったくそ悪い」
 売布の視線はねっとりと肌にはりつくように気味が悪い。握りしめた僕の両手の内側がじっとりと汗ばんでいた。
「葺合。珍しい名字や。何度転校したかて、やらかしたことは名前と一緒に広がってまうやろ。去年、神部の人工島ではっちゃけた小学生が葺合いうたそうやな。島の中坊を十人ほどまとめて病院送りにしたとか……」
 僕は思わず割って入った。
「そんな根も葉もないデマ情報を先生が鵜呑みにするわけないだろ」
「耳にふたはできへん。聞く気がのうても聞こえてまう話もある。見たいと思うてへんでも、いっぺん見てしもたもんは頭から消されへん。あとで騒いでも、どうもならん。なあ、烏丸」
 唐突に名前を呼ばれて、身体がびくっと反応してしまった。
 葺合は横を向いて唾を吐いた。
「学校全部を敵にまわしてもええんやな」
 昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
 葺合はもう話はすんだとばかりにきびすを返し、新校舎へ向けてさっさと歩き出した。
 僕はあわててその後を追った。
 売布は動かなかった。その姿が見えなくなったあたりで、葺合が振り向いた。
 きつい目にちりちりと焦げるような苛立ちが燃えていた。
「どこまでついてくる気や。うっとい」
 同じ教室に向かっているだけだったのに。
 そんないいわけも言えずに僕は身をすくめ、足取りを速めた葺合から距離をおいてとぼとぼと歩いた。

 五限目の終了後、御影につかまった。
「あんた、大宮さんに何を話したのよ」
「あっちに聞けばいいだろ」
「口では『楽しかった』って言ってたけど、気を遣ってるのみえみえだったもん」
 僕は机に肘をついて髪に指をつっこんだ。
 知ったかぶりの一方的な話で大宮の優しい気持ちを傷つけたことは自覚していた。葺合に罵倒されたのは天罰だ。
 御影は大げさにため息をついた。息子のテストが期待はずれの点数で返ってきた母親みたいだった。
「あのねえ、あんないい子に気に入ってもらってるのに、何が不満なのよ。せっかくのチャンスなんだから、難しいこと考えないで楽しめばいいじゃない」
 大宮にはもうしわけないが、御影に謝る理由はない。
「お前みたいにお気楽にはやってけないよ」
「あんたこそ、なんでわざわざ面倒くさいとこにばっかり首をつっこむのよ。自分に関係ないことでいちいち悩んでたら、きりがないよ」
 御影の言いたいことはわかった。よけいに返事をしたくなくなってむっつりしていたら、さらに追い打ちをかけてきた。
「同級生ったって、たまたま同じ校区に住んでるだけじゃないの。卒業すればちりぢりになって二度とかかわることもない。それなら三年間、片眼をつぶって無視してりゃいいのよ」
 尊大な物言いにかちんときて、僕も声を荒げてしまった。
「そこまで言うなら最初っから私学に入ってりゃ良かったんだよ。お前、小六の時からそのために塾通いしてたんじゃないのか」
 御影は、つんと無表情になった。端正な顔がますます人形じみて見えた。
 プリーツスカートを翻して立ち去っていく背中を見ながら唇を噛んだ。小学生の頃はあんなこと言うやつじゃなかった。四月の入学以来、僕らは自分でも止めようもなく変化している気がする。三年間こんなふうに暮らしていたら、卒業するころにはいったいどんな有様になりはてていることか。

 放課後も青池に寄り道した。
 僕がお供えした卵とミカンはカラスか何かに喰い散らかされ、クロスはくしゃくしゃのしみだらけになっていた。あたりに散らばった食べかすを拾い集めて汚れたクロスに包み、ハンカチで台をきれいに拭いてからひきあげた。


第二章 ヒラタクワガタ

2003/05/22 Thu.

 中間考査が始まった。
 今週になって僕は葺合と直接話をしていない。後を追いかけたり捜したりするのもやめていた。
 彼は相変わらず誰とも親しくならず、昼休みや放課後にはすいと姿を消してしまう。
 常盤の流す噂話に興味をもつ者はだんだん減っていた。
 校長室に来客があったこと。たぶん教育委員会だか補導センターだかで、西中の近隣住民から生徒の素行について苦情がはいったらしいこと。
 宇多野先生が教卓に放り出していた出席簿には、いつのまにか「葺合滋」の名前が書き足されていた。
 校内をあちこちほじくり返されるのがよほどいやだったのか。職員会議はさっさと彼の区域外就学を認めたらしい。
 クラスの女子が別の情報を持ってきた。
「もともとうちの県住におったんが別れたお父さんやねんて。いつのまに転がり込んできたんかわからへんけど、管理の人がぶうぶう言うてたわ」
 西中在校生の推定二割は離婚家庭の子だ。種明かしがされたことで、みんなの好奇心は急速に薄れていった。
 売布や江坂も何の動きもみせていなかった。

 試験は十一時前に終了した。僕は裏門から学校を出た。田植えの始まった水田のあぜ道で深呼吸をし、青池に向かった。
 母さんには「放課後も図書室で勉強したいから」と理由をつけて、普段通りに弁当を用意してもらっていた。
 
 今週から始めた新しい日課。今までより少しだけ早起きして青池にたち寄ること。
 祠にゆで卵やチーズ、果物などのお供えをする。その上には、先週末神部市で買ってきたポリ袋を裁断してかぶせてやる。「カラスの視覚を混乱させる」という触れ込みの、紫外線を通さないフィルムだ。両手をあわせてから登校し、放課後にはクロスを回収に行く。
 月曜日にはどうなることかとどきどきしながら見に行った。食べ物はきれいになくなり、クロスとフィルムは畳んで置かれていた。火曜日も水曜日も同じだった。
 昨日の午後から今朝にかけて雨が降った。今日の池は水かさを増し、川から流れた空き缶をためこんでいるだろう。
 そろそろ何かを期待してもいいかも、という気分になっていた。

 まだ離れたところから池のほとりに目をこらした。空き缶拾いをしている人影を見つけたときには胸が高鳴った。しかし、近づいてみるとそれは葺合ではなかった。
 いや、中学生でさえなかった。見覚えのある鉤つきの竿をあやつっていたのは、大人の男の人だった。

らす・きあ蛇足話その8 カラスと黄色いゴミ袋

 ちょっと前のTV番組で「カラスは黄色が見えないから、黄色い半透明のゴミ袋を使えば中身が見えず、食い荒らされない」という説明があったような、なかったような。
 うろ覚えだったので、作品に書く前にネットで調べてみました。
 どうやら「黄色が見えない」あるいは「黄色が嫌い」というのはデマのようです。実際には鳥類は人間より視細胞が発達していて、人間には知覚できない紫外線帯域の光も見えているそうです。
 そこで、紫外線を通さない袋を作ってやると、人間にはわからなくてもカラスには通常と違って見えるので、とまどって喰いに来ない、ということらしいです。
 そういう性質をふまえて商品化されたゴミ袋が黄色かったせいで、誤解が生じたようですね。
 ネタにする前に確認してみてよかったです。なにごともうろ覚えで人に伝えるもんじゃありません。
 これからも気をつけますけど、もし間違いに気がつかれたら遠慮なく指摘してくださいね。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第7回

 僕は食卓から殻つきのゆで卵とミカンを選んでクロスに包み、弁当箱に載せて鞄につっこんだ。
「学校に着いてから食べる」
 指定の登校路を途中からはずれて青池に向かった。小島に渡って祠の小さな格子戸の前にクロスをひろげ、卵と果物を載せてぱんぱんと手を打った。
 背後のクロマツが、がさりと枝を揺らした。ぎくりとして振り返った僕の頭上で、ハシブトガラスが一声鳴いた。なんとなく気が引けて、学校めざして一目散に駆けだした。

 走りとおして予鈴ぎりぎりに教室に飛び込んだというのに、宇多野先生はSHRの終わりまで姿を見せなかった。
 朝の教職員会議が長引いているのだと、常盤が言った。
「例の転校生や。校門指導の玉出ともめて、また職員室にひっぱってかれてた」
「そんなん、会議と関係ないやん」
「あいつ、ちょっとおかしいねん」
 常磐はことばを切って唇をなめ、思わせぶりに声を低くした。昨日のハイテンションぶりとは全然態度が違う。葺合に対する教室全体の風向きが変わってきたのを敏感に察知しているのだ。
「他の組に親が西支所の窓口に勤めてるやつがおんねんけど。連休からこっち、西中の校区に転入してきた家族なんてないそうや」
「市役所で手続きしたんかもしれへんやん」
 女子のひとりが言ったが、誰も賛成はしなかった。
 このあたりは明智市も西のはずれだ。わざわざ東端にある市役所まで転居届けを出しにいく人がいるだろうか。
「ほなら、あいつの家がどこにあるか、知っとうやつはおるんか?」
 生徒たちはなんとなく顔を見合わせた。
 一限目国語の宮木先生と葺合が一緒に教室にはいってきたので、話はそこでとぎれた。
 葺合の前髪が短く切られていた。適当にハサミをいれたとしか思えない、不揃いで不格好なありさまだった。門真の笑い声が数秒間ひびいて唐突にやんだ。髪のバリアを取り払われた葺合の目に射すくめられ、喉を詰まらせたようだ。
「校則だからって、ちょっとひどいんじゃないか」
 僕のつぶやきに、御影がこたえた。
「自分で切ったのよ。私、校門で見てたの。玉出先生に注意されて、その場で先生からハサミをひったくって、じょきじょきじょきってね」

 昼休み、僕は大急ぎで教室を出て校舎の外階段を駆け上がった。屋上へ通じるドアは施錠されていたので、そのすぐ下の踊り場からコンクリの塀ごしに身を乗り出し、旧校舎の裏手に目をこらした。思った通り、丈の高い雑草の茂みがフェンスに向けて揺れ動くのが見えた。
 地上まで降りようと振り向いたところで脚が止まった。すぐ下の階に二人の女子生徒が待ちかまえていた。
 セーラー服のスカーフをいじりながらもじもじしているのは大宮だ。その後ろには保護者みたいに御影がくっついていた。
「……お詫びとかはもういらないんだけど……」
 僕がもごもごと言いかけたのを無視して、御影がわざとらしくにっこり笑った。
「いい場所みつけたわね。先生や上級生もここまであがってこないと思うけど、念のため見張っといてあげるわよ」
 そうして何かを放り投げてきた。あわてて手を伸ばし、なんとか受けとめてみると、僕の弁当の包みだった。
「ごゆっくり」
 御影は僕と大宮を残してさっさと階段を降りていってしまった。勝手に鞄を開けられたことを怒るひまもなかった。
 僕がよっぽど情けない顔をしていたのだろう。大宮がおずおずと聞いてきた。
「……やっぱり、迷惑やった?」
「いや……大宮さんさえ嫌じゃなけりゃ……」
 優柔不断といわれてもしかたない。そのまま二人ならんで階段に腰をおろし、弁当を食べるはめになった。大宮は手のひらより小さな弁当箱からピンポン玉より小さなおにぎりをついばんだ。しばらくはどちらも黙々と箸を運んでいたので、タクアンをかじる音が相手に聞こえるんじゃないかと思ったほど静かだった。
 大宮のほうから気をつかって話しかけてきた。
「教室の文鳥、私以外にお世話してくれてるの烏丸さんだけでしょ。優しい人やなって前から思うてたんよ」
「……人間の身勝手で生きものが死ぬのを見たくないだけだよ」
 文鳥のケージを教室に持ち込んだのは宇多野先生だ。自宅で飼っていたつがいの一羽が死んでしまって嫌気がさしたんだろうと、常磐が見てきたように噂していた。
「野生の生きものかて、死んだらかわいそうよね」
 大宮はシデムシの餌になったネズミを思い出したのだろうか。
「自然界では生死は循環システムだ。個体数は淘汰されてバランスを保つ。死骸は他の生きものに利用される。僕がいやなのは、自力では生きのびられないような状況に隔離しておいて、世話を放棄する人間の傲慢さだよ」
 大宮は途方にくれたように箸をとめた。こんな話になるとは思っていなかったんだろう。僕はあわててつけ加えた。
「べつに、小鳥を飼うのが悪いことだとは言ってないよ。僕だって金魚を飼ってるし」
「外の世界に逃がしてあげたほうが小鳥はしあわせなん?」
「飼育された生きものを放したりしたら生態系が混乱してしまう。野生化したセキセイインコは野鳥の生活をおびやかすだろ。野生種だってつかまえたのと別の場所に放せば交雑による遺伝子レベルの問題も起きるし……」
 違う。大宮が聞きたいのはこんな説明じゃない。わかっちゃいるけど、僕には女の子の感性にあわせた話題なんて思いつけやしない。
 会話はそこでとぎれ、僕らは残りの弁当を黙ってかきこんだ。

 お通夜のような食事会を終えて大宮を教室まで見送り、あらためて旧校舎横にたどり着いた時には昼休みは五分ほどしか残っていなかった。
 日増しにきつくなってきた初夏の日差しを浴びて、名前を知らない草たちがぼうぼうと生い茂っていた。風に揺れる葉の先からバッタが跳びだした。鼻先をかすめてモンシロチョウが飛んでいった。
 ムシたちが静かになるまで、息を殺して草むらに身をひそめた。
 ようやくフェンスのあたりで動く気配を感じ取った。そっと近づこうとして、ふいに顔を出した葺合とデコをぶつけそうになった。
 葺合は反射的に回避して身構えたが、こっちが誰だかわかるとちょっとだけ緊張をゆるめた。
「また、お前か」
それだけ言って通り過ぎようとするのを、とっさに腕をつかんでひきとめた。
「ちょっと待っ……」
 とたんに空と地面がくるりと入れ替わった。
 僕は草の上に投げ飛ばされて背中をしたたかに打ち、肺の中の空気を底まで吐き出していた。
「いきなり手ぇだすな。あほ」
 葺合の口振りは冷たかったが、少しはかわいそうに思ったらしい。片手をつかんで身体を引き上げてくれた。
 僕は胸をそらせて肺に空気を入れなおし、背中に手をまわしてさすってみた。痣が残るほどのことはなさそうだ。
 葺合はポケットに両手をつっこんでそっぽを向いていた。
 立ち去るそぶりがないのに励まされて、恐る恐るきりだした。
「ちょっとだけ話してもいい?」
 返事はなかったが遮られもしなかった。
「こないだ、ちょっかいをかけてきた二年生たちは雑魚だよ。気をつけないと、もっと面倒な連中にまきこまれちゃうよ」
 葺合は興味なさそうに足下の小石を蹴った。
「アホどもが言うとった。エサカとかメフとか」
 頭の上から別の声が降ってきた。
「その話やねんけどな」
 見上げると、二年生の売布と目があった。いつからここにいたんだろう。
 ナナフシのようにひょろ長い身体のてっぺんに血色の悪い顔がのっかっていて、僕らはアリのように見下ろされていた。
「心配せいでも、江坂さんにはお前にじかにかまう気ぃはないで。そっちから頭さげてくんなら、話は別やけどな」

らす・きあ蛇足話その7 気候変動とムシたち

 某所で「気候変動」というお題をいただきました。

 ブログアクションデイ

 人間は冷暖房やらアーケードやら地下街やら自家用車やら、お天気や季節の移り変わりに左右されない生活をせっせと押し進めています。
 人間のつくりだす、局所的には安定した住環境にちゃっかり乗っかって繁殖するムシたちもいるわけですが、大半の生き物は自然の季節と気象の移り変わりに身をゆだねて生きています。
 そんなちいさな生き物たちの暮らしが、知らない間に少しずつ変化していることに気がつきませんか?
 局所的な環境破壊だけでなく、地球規模で天候や気温、湿度などが変化した結果、住処をかえるムシ達、絶滅の危機に瀕する(あるいはもう絶滅してしまった)ムシ達、予想外の土地で繁殖し始めるムシ達などがいます。はて、いつの間に雨が降ったやら、みたいな生活ばかり続けていると、そういうムシ達の苦労に疎くなり、最後には自分たちの生活基盤そのものが変化していることに気がつかないまま年月を重ねてしまいそうだとは思いませんか。
 すべての気候変動の原因が人間の活動にあるとは思いませんが、この地球のうわっつらがいつまでも私たちに都合のよい世界であるわけではない、そんなこともたまには考えてみたいと思います。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第6回

 僕はそっとカーテンの裾を持ち上げて窓の外を見た。
 家が斜面にはりつくように建てられているので、玄関は一階に見えてもこちら側は二階の高さだ。眼下にはアカマツとユーカリがまばらに生えた急斜面がゴルフコースの芝生まで続いている。芝生の向こうはまた崖になっているようで、平野部の市街まで見渡せた。
「こっちの窓には誰も近寄らないと思うけど」
「見られてる気がするんだよ」
 長居は苛立たしげにそう言って、コントローラのボタンを連打した。
 千林は台所に立ってごそごそしていた。勝手知ったる他人の家か。半分残ったコーラのペットボトルを出してきて、コップみっつに均等につぎわけた。
「この部屋にいても人目が気になるんなら、月面にでも行くっきゃないな。それとも、周りを月面なみに掃討しちまうか」
 皮肉を言われても長居は相手にしなかった。
「千林は、ずっと来てくれてたの?」
 僕がこの前ここに来てから一ヶ月以上たっていた。長居が教室に姿を見せなくなってから、なんとなく遠慮してしまっていた。
「部屋にいれてもらえたのはおとといからだよ。お前のほうがタイミング良かったな」
 TVから気の滅入るようなメロディーが流れた。ゲームオーバー。長居は悪態をついてコントローラを投げ出し、僕が手渡したコーラを一気飲みしてむせた。
 千林は乾いた笑みをうかべ、学習机の上に飾ってあったライフルを取り上げて僕に投げてよこした。
 玩具のつもりで受け取ったら、意外にずしりと重くてびっくりした。全長八十センチはありそうで、つや消しの黒い銃身が本物っぽい質感だ。エアソフトガンというやつだろうか。台尻の部分はかなり使い込まれたようにてかりがあって、ちょっと寒気がした。これって十八歳未満所有禁止なんじゃないのか。それを言うなら、さっきから長居がプレイしているゲームもR18指定のようだけど。
「弾はでないよ」
 千林が銃を構えるジェスチャーをして窓の外にあごをしゃくってみせた。
 僕はぎこちなくその動作をまねて、カーテンのすきまに銃口を差し込んだ。スコープを覗くと、すぐそこにゴルフ場のアカマツが見えた。樹皮の一部がえぐれて白っぽい木質が露出していた。
「もちっと下、狙えよ」
 枝のすきまから西中学校の校舎がぼんやりと見えた。射程外なのはわかりきっていたけど、なんだか腹の底が冷たくなった。TVゲームのBGMがずっと遠くで鳴っているような気がした。
 背中に何かを期待するようなふたりの視線を感じた。唾を呑んで校舎からそろそろと照準をずらした。藪の切れ目から青池が姿を現した。昨夜の雨が空気を洗い流したせいか、小さな池の水面は鏡のかけらを置いたようにきらきらと日光を反射していた。
 その光を遮って動く小さな人影をみつけてはっとした。この距離からはっきり見えるはずもないのに、それは確かに「あいつ」だという気がしたのだ。
 僕はライフルを千林の手に押しつけて立ち上がった。
「また来るよ。じゃましたな」
 長居が振り向いて僕に手をのばしかけた。千林が何か言ったようだったが、はっきりとは聞き取れなかった。
 僕はもう大あわてで運動靴をつっかけ、家の外に飛び出していたから。

 坂道をころげるように駈け降りた。
 走りながら、自分に言い聞かせた。期待なんてするな。あとでがっかりするだけだから。世の中そう都合良くことが運ぶわけがないだろう。いいかげん学習しろよ。
 青池につながるあぜ道にたどりつき、大きく息をついた。鼓動が早いのは走り続けてきたせいだけではなかった。
 どうやら僕は、この先十年分くらいの幸運を今、使い果たしてしまったみたいだ。
 池のほとりに葺合がいた。制服の上着を脱ぎ、カッターシャツの袖をまくりあげ。一心に水面をみつめる横顔は年齢よりも幼く見えた。複数の上級生を足蹴にした猛者だとは信じられなかった。
 葺合は手すりを乗り越えて水辺に身を屈め、長い竿のようなものを池の隅の淀みにさしのべていた。竿の先には鉤状の金具がつけてあった。彼はそこに何かをひっかけて、ひょいとすくいあげた。地面に転がされたのは発泡酒の空き缶だ。
 彼の背後には空き缶の小山ができていた。学校を出てから一時間ほどしかたっていないはずなのに、たいした収穫だ。雨水路から流されてきたゴミが溜まっていたのだろう。
 こちらから声を掛けるより先に気づかれた。葺合は無言でひゅん、と竿をひるがえし、僕の鼻先に向けてぴたりと止めた。ぶつかる距離ではなかったが、十分に威嚇的な態度だ。僕はといえば、とっさにどう反応したものか思いつかず、泥水の滴る鉤をみつめたままその場に立ちすくんだ。
 冷たい目でにらまれて、何か言わないと、と焦った。
「つっぱりポールとワイヤーハンガーかな?うまいこと細工したね」
 うわ。まぬけなこと言っちまった。
 葺合の気合いがすこん、と緩んだ。こいつアホか、と言いそうな顔になって竿を引き上げ、元の作業に戻っていった。
 僕はその場に立ったまま、しばらく彼を見守った。
 鞄を提げた手がだんだん痺れてきた。下校時なのになんでこんなに重いんだろうと考えて、ようやく昼飯を食べていなかったことを思い出した。
 手つかずの弁当を家に持ち帰ったりしたら、母さんを心配させてしまう。僕は鞄の底をさらって採集用のポリ袋をさがしだし、弁当箱の中身をあけて口をかたくしばった。帰り道にどこかのゴミ箱に放り込むつもりだった。
 気がつくと、葺合がじっと僕の手元をにらみつけていた。
 僕と目が合うと、すっと下を向いて竿を縮めた。そうして集めた空き缶をひとつずつ手に取り、飲み口を下にしてとぽとぽと水を出していった。スチール缶とアルミ缶を別々にスーパーのレジ袋に詰め、地面に放り出していた制服に手を伸ばした。
 僕は葺合の鞄を拾い上げて差し出した。彼はすぐには受け取らず、僕をとがめるように見上げた。
「食いもんを粗末にすんな」
 はじめて彼の声を聞いた。グラスを弾いたように透明感のあるボーイソプラノ。心臓が喉から飛び出しそうになった。僕は自分の鞄とポリ袋を持ったほうの手をさっと身体の後ろに隠した。
「……ごめんなさい」
 葺合は意外にくるっとした目を見開いた。
「こんくらいのことで簡単に謝るな」
「……ごめ……じゃなくて……ええと……」
 しどろもどろになった僕を前に、その目尻がすこしだけ緩んだ。
「お前、カエルか?こないだから池のはたにばっかりおるやろ」
「シ……ムシを見ていただけだよ」
 今度は口の端をちょっともちあげた。なんだか僕の反応をおもしろがっているみたいだ。
「米の飯よりコバエでも喰いたいか」
 およそ美声にそぐわないばりばりの関西イントネーションだ。
「ハエを観察するのは好きだけど、食べたいとは思わない」
 とうとう、くくっと声をあげて笑われた。
 あどけない顔立ちが、日の光が射し込んだみたいに明るくなった。ばかにされたのかもしれないが、不思議と腹は立たなかった。
 そのときだ。彼のベルトのあたりでぐるぐるとヒキガエルの鳴くような音がした。葺合がはじめてうろたえた。日焼けした頬が赤くなった。
「……おなか、すいてるの?」
 芸のない質問に答えようともせず、僕の手から鞄をひったくると、くるりと向きを変え、両手いっぱいの荷物をさげて走り出した。
「ちょっと待って!」
 後を追って駆けだしたが、僕の足で追いつけるスピードではなかった。
 かどを曲がった先は田んぼと竹藪と果樹園だ。イチジクの木の列に遮られ、彼がどちらに向かったのか見当もつかなかった。


2003/05/16 Fri.

 いつもより十分以上も早起きした僕に、母さんが声をかけた。
「なにか食べて行きなさいよ」
「今すぐは無理だからさ」

らす・きあ蛇足話その6 長期戦

 今朝の新聞から、とうとうスマトラ島沖地震の記事がなくなりました。
(昨日の朝刊にはかろうじて、NPOの緊急募金広告が載っていたのですが)
 次々と新しいニュースがはいってくるなかで、報道はあっという間に減っていきます。しかし、現地の問題が同じスピードで解決していくわけではありません。
 むしろ、世間の人たちが関心を失ってから、現地の苦難は始まるのです。これから再建していかなければならないもの、失われたまま二度と戻って来ないもの。打ちひしがれたままではなくとも、予想もしていなかったかたちに変わってしまった人生をこれからどう生きていくのか。答えをさがす道のりは一生続くでしょう。

 それにしても、こういった災害がおこるたびに、備えがあれば防げたはずの被害が繰り返されることに哀しくなります。方法がわからないわけじゃない、知ってはいるんだけど、「いつおこるかわからないから」あとまわしにされる。人間同士の戦争はお互い知恵をしぼれば回避のしようもあるでしょうけど、天災は、必ず、防ぎようなく、襲いかかってくるのです。他人事だと思わずに備えをしなくては、大騒ぎの報道の意味もないでしょう。
 

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第5回

 聞きたくなくても聞こえてくるのは、旧校舎最上階に殴りこみをかけた転校生の武勇伝。常盤が尾ひれのついた話を見てきたように吹聴している。
 住之江はぽかんと口をあけて心底感心したように聞き入っている。今日は自分がいじられていないので緊張が緩み、ズボンの前ファスナーが下がっているのにも気がついていない。
 あいつは他人の話を全部真に受けてしまう。先週も、女子のひとりがお前に惚れているぞ、とだまされて大恥をかいたばかりなのに。またぞろいいように乗せられて痛い目にあうんじゃないか。
 高井田が門真をつれて教室にはいってきた。
 わざとらしく鞄を机にたたきつけて大きな音を立てた。それが合図だったかのように、生徒たちのかたまりはさらさらとほどけてなくなった。
 もちろんクラス全員が与太話に乗っていたわけではない。千林はいつもと同じく我関せず、予習に没頭しているふり。御影は女子どうし別のグループをつくっておしゃべりをしていた。
 金岡は今朝も顔色が悪かった。そわそわと教室を出たりはいったり、待ち人がなかなか現れないという風情でちらちらと窓の外を見たりしている。脇を通った門真が、ばかにしたように声をかけていったのにも気づいていない。
 僕は葺合に話しかける機会をうかがっていた。しかし、彼は周囲の噂など聞こえていないみたいに、昨日と変わらぬ姿勢のまま休み時間も席をはなれようとしなかった。
 ようやく昼休みを告げるチャイムがなった。僕はざわざわと動きまわる生徒たちのカオスをかきわけて窓際の席に近づこうとしたが、そこにいたはずの葺合は知らぬ間に姿を消していた。
 弁当も開かずに教室を出て、あてもなくうろうろと校内を歩きまわった。どこにも彼の姿はなかった。ひょっとしたらフェンスの外に出て行ったのかもしれないと思いついた時には、昼休みは終わってしまっていた。

 五限目は体育だった。男子は校庭でサッカーの基礎練習をしたが、葺合だけは体育の伏見(ふしみ)先生に学校外周のランニングを命じられた。指定のジャージを着てこなかったというのが理由だった。小学校の校章をひきはがしただけの体操服と臙脂色の短パンという格好を見れば、彼がまだこの学校の指定品を整えていないことくらいわかっただろうに。「罰則に例外をつくらない」ことに伏見先生は固執した。
 葺合は黙々と走り続けた。授業終了までの正味四十分間、まったくペースは落ちなかった。僕は彼が一周五百メートルの道路を少なくとも十周したところまでカウントした。あとは自分の立ち位置が移動したので見えなくなってしまった。
 そのかわり、旧校舎の窓から走者を見下ろしている連中がいることはわかった。
 伏見先生は罰則を科した生徒のことをうっかり忘れてしまっていたらしい。終了を知らされなかったせいで、葺合はいちばん最後にひきあげてきた。途中、養護の壬生先生に呼び止められてさらに遅れたようだ。六限目の始まりに間に合わなかった彼に、数学の安土(あづち)先生は宿題の解答を板書するよう命じた。
 彼が転校してくる前に出題されていたプリントだ。
 先生は「やってこうへんかったんなら、今ここで解けばええ」とこともなげに言ったが、葺合は黒板をにらんだまま彫像のように動かなくなってしまった。
「わかりません」とひとこと言えばいいのに、黙っているものだから教師も意地になった。
 高井田の野次も他の生徒たちの笑い声も彼を動かしはしなかった。
 結局、数学の時間はみんなが葺合の背中を眺めるだけで終わってしまった。
 安土先生が出て行ってしまってから千林が毒づいた。
「五十分、丸々無駄にしたじゃないか。まわりの迷惑考えろよ、ばか」
 御影が冷ややかに言葉を返した。
「そう思うんなら、さっさと答えを教えてあげればよかったんじゃないの」
 気まずい空気の溜まった教室に、妙な音が流れ出した。堪え損ねたすすり泣き。金岡だ。
 彼の机のまわりは住之江が茨木にひっくり返されたときよりもちらかっていた。鞄の中身と引き出しの中身を全部放り出してかきまわしたようだ。
「無い、無い、ない……」
 床にはいつくばり、バラバラに散らばったプリント類に指をつっこんでさらにかきまわしながら、うつろな声をあげて泣きひしっている。
 僕らが唖然としているところへ、宇多野先生が現れた。
「またお前か」
 前回の盗難も金岡が被害者だったことは暗黙のうちに知れわたっていた。だからといって、担任教師が平然と言いはなっていいことだろうか。そんなことを気にかけるのは僕だけか。
 宇多野先生は金岡に
「あとで職員室に来い」
とだけ声をかけてSHRを始めた。

 終業後、同級生達が三々五々出て行ったあとも、僕は自分の席に残り、頬杖をついてぼんやりと葺合の席をながめていた。
 校庭で練習する運動部のかけ声が聞こえる。入学時には絶対どこかの部活に所属しろと言われて、あちこち見学はしてみた。結局どこにも入部する気になれまいまま、ずるずると日がたってしまったな。
 僕の他には金岡だけが居残って、鼻をすすりながら机と鞄の中身を片づけていた。
 がらんとした教室に、文鳥の鳴き声が妙に甲高く響いた。
 金岡がいきなり立ち上がって、手にした教科書をケージに投げつけた。重い本がぶつかったはずみでケージはぐらっと傾き、ぎりぎりのところで倒れずに弧を描いてかたかた揺れながら元に戻った。中の止まり木もゆさぶられて、驚いた小鳥が羽毛を散らして羽ばたいた。
 僕は舌打ちし、ケージに寄って中を確かめた。餌と水が散らばって底に敷いた新聞紙を汚していた。
「やつあたりすんなよ。みっともない」
 金岡は返事をしなかった。ページの折れた教科書を拾い上げて鞄にねじこみ、わざとらしく大きなため息をついて出て行こうとした。校舎の出口ではなく、奥へ向かおうとしていることに気がついて、僕はまた余計なことを言ってしまった。
「職員室になんか行く必要ないよ。宇多野先生はもう帰っちゃってるからさ」
 金岡は立ち止まり、うっとうしそうに僕を振り向いた。
「生徒を呼んだことなんかもう覚えてないよ、あの先生は。きみもいいかげん学習しな。同じ失敗を繰り返してさ。金を盗ったやつはもうきみの行動パターンを読んじゃってるんだよ。わかるだろ?」
 金岡は僕の話を最後まで聞いていなかった。街頭キャッチセールスを振りほどくみたいに足早に出て行ってしまった。
 僕は雑巾を取ってきてケージの乗った机を拭き、新聞紙を交換した。
 失敗するとわかりきっているのに、同じ行動をくりかえす連中の頭の中なんて理解できない。中途半端に忠告したって無駄だし、うざったいやつだと思われるだけ損なくらいだ。
 そこまでわかっていて声をかけてしまう僕も、結局そういうバカのひとりなんだろう。
 このまままっすぐ家に帰ったら、また勇にやつあたりして嫌なことを言ってしまいそうだ。小鳥をいじめるのとちっとも変わらないじゃないか。

 少し頭を冷やしてから家に帰りたかった。ひさしぶりに長居に会いに行ってみようと思いついたのは正門を出てからだ。
 長居の家は校区の北のはずれ、最近山腹に造成されたゴルフ場の隣にある。
 アカマツの並木道をだらだらと登ると、積み木のようにくっつきあった同じ形の小さな一戸建てが並んでいる。そのなかの一軒の前に立って呼び鈴を押した。
 ドアを細くあけて顔を出したのは千林だった。
「……烏丸か」
「長居のお母さんは?」
「留守だけど、かまわない。はいれよ」
 長居はカーテンを閉めた部屋の隅、しわの寄った布団に寝そべってTVゲームをしていた。身につけているTシャツとトランクスからは汗が乾いたあとの酸えた匂いが、わずかに漂っていた。千林が床に散らばったマンガ雑誌やプラモデルを寄せて、僕が座る場所をつくってくれた。
「湿気がこもってない?窓あけちゃだめかな?」
「外からのぞかれるんだよ」
 ゲーム画面を見据えたまま、長居が言った。

らす・きあ蛇足話その5 gremzまたは生物多様性

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 週に1〜2回しか書き込まないブログでも、gremzの樹は健気に育ってくれます。
 今回、4本目が大人の樹になりました。毎回ちがったかたちになって楽しませてくれます。今までは三日月型、星型、涙滴型、そして今回は円筒形?

 エコロジーに関するキーワードをブログに書けば違ったリアクションがあるそうですが、私は今までお目にかかったことがありません。小説の内容的には生物多様性とか無益な土木事業のこととか里山の保全とか折りにふれて書いているつもりなのですが。ダイレクトな用語を使うのはあんまり好きじゃないですから。べつにご褒美がなくてもかまわないんですけど……

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