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2009年11月の記事

らす・きあ蛇足話その13 ツンツンツン

 聡の幼なじみで悩みの種、御影涼香ちゃん。
 「鳥杜」と「墓守虫」では大活躍のヒロイン(?)ですが、「脚高蜘蛛」には登場しませんでした。
 これは当時、作者が設定をまだしていなかったのではなくて、たまたま物語がほとんど夏休みの学校外だったので、出番がなかっただけのことです。
 構想時には終業式、始業式あたりにちらっと登場させるとか、滋が聡をからかうネタにするとかも考えたのですが、あまりに半端すぎてよくないな、と考えなおしたのでした。
 というわけで、第一作のヒロインは北野清子さんになったわけです……

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第12回

「同じ学年やな。俺の……」
 葺合が言いよどんだことを意識していなかった。自転車を空き地ぞいの路肩に寄せながら、なにも考えずに話し続けてしまった。
「妹さん?西小にいるの?」
「希(のぞみ)は……ここにはおらん」
 冷たいものが、ぽつりと額に触れた。空を見上げた僕の肩が背後からつかまれて引き寄せられた。
「えっ……」
泡を食った僕の耳に葺合がささやいた。
「兄貴やったら、きっちり妹を守ったれよ」
 ふりむくと、真剣な目にひたとみつめられた。
 僕はあいまいに頷いた。葺合はすっと身を離し、ちょっとだけ笑った。
「すぐ本降りになるで。急げよ」
 そうしてふだん通りの軽快な足取りで旧街道を走り去った。
 僕がぽかんと見送るあいだにも、雨粒はさわさわと数を増やして薄いカーテンとなり、遠ざかっていく後ろ姿を包み隠した。

 母さんと僕とでワゴンRに乗ってでかけ、雨に濡れた自転車を荷台に押し込んで家に持ち帰った。その間に父さんが帰っていて、台所仕事を引き継いでくれていた。それでも夕食の時間はいつもより大幅に遅れてしまった。別段文句を言うものはいなかったが。
 父さんが静かにぐい呑を傾けているのも、勇がノンストップでおしゃべりしているのもいつも通りだ。
 自転車の鍵を失くしたことが話題になったのも成り行きだった。
「そういう時にはお店の前に置いてきてもええんよ。ようあそこまで運んだわね」
 母さんの言葉に僕のほうがどきりとしたが、勇は大鉢のサトイモを取り分けながらさらりとこたえた。
「お兄ちゃんのお友達が一緒にさがしてくれて、それから途中まで自転車持ってくれたの。めっちゃ優しくて、きれいな目の人」
「へえ?」
 母さんが僕を見た。
「クラスメートだよ」
 ちょっと声がうわずったかもしれない。
「そう。良かったわね、勇。お礼を言わんとね、聡」
「僕から言っといたから」
「でももう、鍵は失くさんよう気いつけてよ。いっつも優しいお姉さんが助けてくれるわけやないからね」
 勇は聞こえなかったふりをしてサトイモをほおばっていた。肯定も否定もしないのが計算ずくだとしたら、たいしたものだ。
 母さんはそれ以上つっこんでこなかった。
 僕は改めて妹の顔をまじまじと見た。
 優しくてきれいな目の人……。
 勇は自分が感じたままを言葉にした。嘘もごまかしもないから、母さんもすんなり納得したのだろう。
 僕なんかは葺合が「勘違いしてる男の子」ではないことをどう説明したものかと思い悩んでいたのに。
 僕にはとてもまねできない。妹のようにまっすぐに見ること、感じたまま話すことは。
 いつの間にか父さんが僕を見ていた。
「中学校でもそろそろ友達ができたかな」
「四分の一は同じ小学校だよ」
「顔見知りでも場所が変われば、同じようにはいかないだろう」
 僕は返事をせずに皿に残っていた料理をかきこみ、お茶で飲み下した。
 湯飲みを置こうとした手が大鉢をもちあげようとした勇の腕とぶつかった。小さなイモが鉢からこぼれてころころとテーブルに散らばった。
「きゃいん!」
「何やってんだよ、どじ!」
「ちょっと、さきにイモ拾ってよ。下に落ちへんうちに!」
 つるつると箸から逃げるイモを追いかけ、ねばねばになったテーブルを拭く騒ぎにまぎれて、父さんの話はうやむやになった。
 母さんの後について台所に台拭きと鉢を運びながら、勇は僕だけに見えるようにめくばせした。
 借りを返したつもりだろうか。次を期待しているのか。
 こうして葺合の件は兄妹だけの胸にしまわれた。


2003/05/26 Mon.

 各教科の担任からテスト結果の返却が始まった。
 三限目数学の安土先生はパソコンで作成した素点の度数分布グラフを全員に配った。
 四限目は自習だったので、生徒たちは仲の良いもの同士、額を寄せ合ってひそひそと情報交換していた。
 真ん中あたりの成績だと団子状態で細かな差はわからない。生徒たちの関心は自然と分布の両端に向く。
 僕は上から三番目。宿題以外は全然勉強していなかったのだから、こんなものだろう。上位二人は御影と千林に決まっている。
 男子の一団にひっぱりこまれた住之江が、周囲に聞かれるままに何やら返事して笑い物になっていた。
 高井田と門真はとっくに教室から消えていたが、いじめ役がワンランク下に換わっただけ。最下層の立場は変わりようがない。
 しばらくすると、何人かの男子に背中を押されるようにして住之江が教室の後方に歩いてきた。葺合の席の真正面に立つと、他にどうしようもないといった感じのうす笑いをうかべた。
「葺合くんが転校してきてくれたから、僕の数学の点数、ドンゲツじゃなかった。ありがとう」
 台本を棒読みするような口調だった。
 僕はぎょっとして立ちあがりかけた。御影が僕の制服の袖口をつかんで引き戻した。
 教室内は一瞬、水を打ったように静かになった。
 葺合は知らない外国語で話しかけられでもしたみたいに、ぱちぱちとまばたきして住之江を見つめた。
 やがて口の端をきゅっともちあげて笑うと、意外なほど落ち着いた声で言った。
「そのせりふ、今さっき覚えさせられたんやろ。誰に教わった?」
 住之江は何か答えかけてあわてて口をつぐみ、ぶんぶんと首を横に振った。
「ふん。言うたらあかんてか。そいつは、今、教室に、おらん、やつか?」
 住之江はまた首を横に振った。葺合が怒ったりどなったりしないので、目に見えてほっとしている。
「女か?」
「ううん」
 また首を横に振った。ちゃんと答えられる質問をしてもらえるからか、なんだか嬉しそうだ。
「窓際の席のやつか?」
「ちがう」
「一番廊下側の席のやつか?」
 返事しようとした住之江の背後でひゅっと鋭い音がした。
 僕が叫ぶより先に葺合が席を蹴って立ち、住之江を突き飛ばした。椅子が机にぶつかって、がたんと大きな音をたてて倒れた。住之江はその横に尻餅をついて目を白黒させた。
 葺合は伸ばした右手に何かを受けとめて握りしめ、前のほうの席にかたまった連中をにらんだ。
 ゴルフボールだった。
 それを投げ返そうとするかのように振りかぶった。僕はあわててどたばたと葺合に駆け寄った。彼の前に立ちふさがってから、ボールをぶつけられたら痛いかも、という考えが思い浮かんだ。
 次に誰かが動くより先に、がたがたと戸を引きあけて玉出先生が入ってきた。
「静かに自習せんか……おい、そこ何しとる?」
 先生は葺合に真っ先に声をかけた。葺合は黙って振りあげた腕をおろした。
「何を持っとんや」
 返事をするかわりにゴルフボールを先生に手渡した。ちらっと見えた手のひらが赤くなっていた。先生はボールと生徒を見比べて眉をひそめた。
「ここで投げるつもりやったんか?」
 葺合はまっすぐに先生を見た。にらみ合った二人のあいだに僕がわってはいろうとした時、四限目の終了を告げるチャイムがなった。
 先生は舌打ちしてボールをジャージのポケットにつっこみ、出口に向かった。
「没収や。放課後、職員室まで取りに来い」
 玉出先生がいなくなると、生徒達は一時停止ボタンを解除されたビデオのように動き出した。葺合と住之江に近づく者はいなかった。

 葺合はいつもどおり、何事もなかったかのように教室を出て行った。
 僕は弁当箱を胸に抱えてそのあとを追い、校舎を抜け出した。

あるふぁぽりす

性懲りもなく、アルファポリスの「青春小説大賞」にエントリーしております。

自分の書いているものが、いわゆる「売れ線」でないことは承知していますので、賞が欲しいとか出版されたいとかはもういいのですが、(いえ、宝くじがあたんないかなー、程度の夢はもってますよ。人間ですから)やっぱり少しでも読者さんが増えてくださるとうれしいな、という気持ちです。
ありがたいことに、アクセスカウンターはぼちぼちとカウントを重ねておりますし、「鳥杜」に「よかったよ」と投票してくださった方が二人もおられるということで、とてもうれしく思っています。
直接の批判や感想をいただけたらもっとうれしいのですが、そこまで手をわずらわせてくださるほどのものもまだ達成できていないと理解しています。

連載を追っかけて読んでくださっているみなさん、本当にありがとうございます。

らす・きあ蛇足話その12 北は山、南は海

 神戸市民には方向音痴が多いと言われます。
 坂道をのぼれば北、くだって南にむかえば海。主要な鉄道、高速道路は東西に走っているので、いちいち方角を考える必要がないからだとか。
 「ラス・キア」の物語世界でも明智市では里山から港へ向けてけっこうな高低差があるように描写しております。
 実は、現実世界でこの地形がはっきりしているのは明石市の東部まで。明石市西部から加古川市、高砂市と西に向かうと播磨平野。じつはあまり山は近くありません。
 物語の進行上、山があったほうが都合がよいのでちょっと変更を加えています。
 地元にお住まいの方、訪問される方、フィクションだと思ってご勘弁くださいね。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第11回

 金岡の顔が頭をよぎったが、口をついて出たのは全く別のことばだった。
「不良少年の悪さにわざわざ聞き込みですか?」
 堂島さんの大きな目がぎょろりと動いた。それだけでぞくりと背中に冷たいものが走った。
 まただ。僕はいつも耳障りなことを口走っては自分の立場をややこしくしてしまう。
 そこへ御影がするりと寄ってきて、手にしたガラスコップを差し出した。
「麦茶です。どうぞ」
 美少女に微笑みかけられて、堂島さんはとまどいながらも表情をゆるめた。
「おおきに」
 コップを受けとって一気に飲み干し、青空を見上げて息を吐いた。たちまち汗の玉が額に浮いた。
「土曜日もお仕事って、たいへんですね」
「んなもんは関係ない」
「学校の先生にもお話を聞きに行ってこられたんですか」
「今日やないけどな。何もしゃべらん連中やった。聞きしにまさるわ」
「PTAとか教育委員会の人が相手でも、校長先生ってそんな感じみたいですよ」
「あほくさい。隠し事があるんも、うまいこといってへんのもバレバレやがな」
「そういうのってよくないって思ってる先生もおられるんですけどね」
 堂島さんは空になったコップを返しながら、あらためて御影をじろじろと見た。御影はムシも殺さぬ面もちで微笑み返した。
「平日六時過ぎたら、残業してるのは熱心な先生だけですよ」
「まあ、日を替えて試してみるわ。お邪魔やったな」
 去り際に僕に向かって声をかけた。
「ええ彼女やな」
 その姿が見えなくなってから、御影は腰に手をあてて僕を見下ろした。並んで立つとミュールのヒール分だけ僕より背が高い。
「痛くもないお腹をさぐられるような態度とらないでよね。どじ」
「いちいちおせっかいなんだよ。お茶なんかださなくたっていいだろ」
「おばさんにはあんたにって頼まれて持ってきたの。飲みたかったのならもう一度……」
「いいよ。自分で取りに行くから」
 たらいをかかえて勝手口に向かう僕の背中に御影が言い放った。
「同じ警察でもふだん不良たちを追いまわしてる人じゃないよ。駅前とか商店街とかでもここ数日見かけるようになったわ。気をつけてよ」

 僕は部屋に上がって水槽に砂を流し入れた。
 御影に言われなくても、堂島さんが補導センターの人や交番のお巡りさんたちと全然人種が違うことは感じていた。
 捜査が必要なほどの事件がこの近辺で起こったなんて聞いていない。犯罪があったとしても西中とどういう関係があるのかもよくわからない。かえってあのいかつい人がやっかい事を運んできそうな、いやな予感がした。


2003/05/25 Sun.

 勇がお使いに出かけたのは午後二時頃だった。近所のスーパーには切り干し大根がなかったので、駅前の生協まで買い出しを頼まれたのだ。自転車なら往復一時間もかからないはずが、日暮れ時になっても妹は帰ってこなかった。
 とうとう母さんが僕の部屋まであがってきた。
「悪いけど、勇を探しに行ってくれへん?」
「宿題が残ってるんだよ」
 寝転がって本を読みながら言えたせりふじゃない。それでも母さんは怒ったようすもなく、首をかしげた。
「女の子やから、つい余分に心配してまうんよ。このごろ駅前でちょっと勘違いしてそうな男の子たちを見かけるし」
 それ以上の抵抗はできなかった。僕は読みかけの本をベッドに放り投げて部屋を出た。勇がママチャリに乗っていったので、車庫には小学生用の自転車しか残っていなかった。わざとらしい英字のロゴなんかがデザインされていて恥ずかしいけど、買い換えをねだれるほども僕の身長は伸びていない。仕方なくサドルを引き上げて高さを調節し、夕暮れの街にこぎだした。

 空には暗い雲が垂れこめて今にもひと雨きそうだった。
 国道をゆっくり走ってJR駅前の繁華街まで出た。
 バス乗り場のあるロータリーの周辺には生協の店舗が入ったテナントビルの他にも、一階が薬局の診療所ビルやパン屋、うどん屋などが建ち並んで結構なにぎわいだ。店の中、レジの外、駐輪場から出てロータリーをぐるりと見て回ったが、勇も自転車もみつからなかった。
 ハンバーガーショップの店先で茨木たちが地べたに座りこんでいた。名前を知らない二年生に混じって、高井田や門真、三国までがいた。目をあわさないように通り過ぎようとしたのに、紙コップを投げつけられた。自転車のペダルにあたった空のコップをつま先で押しのけたら、車道にころがっていって通りすがりのタクシーにつぶされた。高井田のはやし声が聞こえたが、僕は振り向かずに先を急いだ。

 国道を逆行して家の前まで戻った。母さんに声をかけたが、勇はやっぱり帰っていないという。はじめは顔を見たら思いっきり嫌みを言ってやろうなどと思っていたのに、いないとなるとだんだん心配になってきた。
 普段通い慣れている道をはずれたのだろうか。
 もう一度家から折り返し、国道より一筋北の旧街道にはいってみた。
 幅が狭い砂利道のうえに古い民家が両側に軒をならべている。植木が枝を張り出したり、庭石がはみだして置かれていたりするから走りにくい。対向車にも気を遣う。最徐行で進んでいたら、前方からやたらと景気のいい歌声が近づいてきた。
 勇が自転車のハンドルを握って押し歩き、アニメ映画の主題歌を大声で歌っていた。
 その自転車の後部を持ち上げながら一緒に歩いてくる少年を見て、僕はサドルから転げ落ちそうになった。
 葺合だ。この場で見かけただけでも驚きなのに、彼はなんと、控えめな笑顔をみせながら勇にあわせて小声で口ずさんでいたのだ。
 もう少しで自転車どうし正面からぶつけてしまうところだった。
 焦って停車した僕の前に、葺合が、すっと動いて立ちはだかった。一拍おいて、彼が不審者から女の子を守ろうとしているらしいと気がついた。
「お兄ちゃん!」
 勇が脳天気に手を振ってきた。
 葺合は拳をゆるめて僕らを見比べた。
「……妹か」
 僕は葺合の肩越しに勇をにらんだ。
「何やってんだよ。ばか」
「自転車の鍵なくして動けなかっただけだもん。そしたら、この人が一緒にさがしてくれたんだもん」
 だからって、ロックされた後輪を持ち上げたまま家まで送ってもらうつもりだったのか。
「そんなときはさっさと電話してこいよ」
 勇は餌を頬袋にためたリスみたいな顔になった。
「テレカ持ってなかったんだもん」
 まともに言い争うのもばかばかしくなった。僕はあらためて葺合に頭をさげた。
「迷惑かけたみたいだね。ありがとう」
「兄妹そろって鈍くさいやっちゃな。兄貴ならしっかり面倒みたれよ」
 口の悪さは相変わらずだが、今日はなぜだか機嫌がよさそうだ。僕は葺合が手を離した自転車の後輪をのぞきこんだ。リング式の鍵がスポークをがっちり固定している。
「鍵を壊しちまえないかな」
「チャリパクや言われたら、うざいやろ」
 確かに、大人の同伴なしで警官に呼び止められるのはいやだった。
「ここに置いといて、母さんに車で取りに来てもらうよ」
僕は乗ってきた自転車のサドルをさげて妹に押しつけた。
「これに乗ってさきに帰りな」
 勇は明らかに不服そうだったが、自分の立場がまずいとは思ったようだ。僕にはふくれっ面を向け、振り向いて葺合に手をふり、そのあとはひらりと自転車にまたがってまっすぐに家に帰っていった。葺合は見送りながら、いつになく優しげな顔をしていた。
「何年?」
「勇かい?小二。おしゃべりでかなわなかったろ」

らす・きあ蛇足話その11 季節はめぐる

 現実世界では、太平洋高気圧がヘタレなせいでぱっとしない夏、台風が迷走して悩まされた秋が過ぎ、そろそろ木枯らしの吹き始めだというのに急に気温があがったりと、よくわからない季節が続いています。せめて物語の世界では、くっきりした四季の移り変わりを描きたいと考えています。
 そのために暑い日に暑苦しいおじさんを登場させたわけではありませんが……
 今回はこれからうっとうしい梅雨、はじけるような夏、せつない秋、物思いの冬を経て、ほんのり暖かい初春まで書き続けていくつもりです。
 もちろん、最初の一ヶ月なみのボリュームが続くわけではありません。最終的には「鳥杜」と同じくらいの長さにおさめたいです。
 やっと第一コーナーをまわったところですが、これからもよろしくおつきあいください。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第10回

 保健室は珍しく無人だった。
 患者用の丸椅子に腰掛けて所載無く座面を揺すっていたら、ぱたぱたと壬生先生が走り込んできた。
「ごめんねえ、呼び出しといて待たせてもたかしら」
 両腕に抱えた何冊ものファイルを目の前のデスクにどさりと置いて、奥に引っ込んだ。
 ファイルの山のてっぺんから、むきだしの書類が一枚、滑り落ちそうになった。受けとめて元に戻したとき、見てはいけないとわかっていても目に入ってしまった。
 生徒健康調査票。個人情報なのに。ルーズな先生だ。
 生徒氏名。「葺合滋(しげる)」
 保護者氏名。「葺合徹(とおる)」
 現住所。国道沿いの県営住宅。
 連絡先の下の保険証番号、かかりつけ医、健康状態、既往歴などの欄はすべて空白だった。
 先生はわざわざ冷たいお茶を汲んで戻ってきた。
 ゆるゆるの花柄ブラウスとフレアスカート、身体の線がまったく見えない服装がよけいに肥満体型を強調してしまっている。
 先生はデスク前の事務用椅子に座り、僕がひと口お茶を飲むのを見て笑顔を作った。
「どない?元気にしてる?」
「まあ、それなりです」
「長居くんのとこへ行ってくれてるんやてね」
 世間話の続きのように切り出された。
 僕は湯飲みをデスクに置いて上目遣いに先生を見た。
「下校時の寄り道。校則違反のお説教ですか」
 千林が話したはずはない。
 先生は僕の口振りにちょっとたじろいで、神経質そうに両手の指をこすりあわせた。
「長居くんのお母さんが喜んではったわ。小学校からのお友達に来てもろて、少しは気分が晴れたんやないかて」
 自分のことを親が教師にべらべらしゃべっているのを、長居は承知なのか。
「ちょっとお礼を言うときたかったんよ」
 僕が黙っていると、先生は視線を泳がせてお茶を飲んだ。それから何気ない調子を装って話題を変えた。
「烏丸くんのクラスに転校生が来たでしょ」
 僕は肩をすくめてくるりと椅子をまわした。
 予想外の反応だったのか。先生はあわてて弁解するように言った。
「詮索してるわけやないんよ。声をかけてもなかなかうち解けてくれへん子やから、気になって……」
「あいつが何か問題をおこしてますか?周りが絡んでるだけでしょ」
 先生方を含めてね。
 口に出さなかった思いもしっかり伝わったようだ。
 むきになって弁解された。
「あの子が悪いなんて思ってへんわ。少なくとも、私や玉出先生は」
 中学生と本気で言い合うつもりですか。
 先にむきになったのは自分だということに、そのときの僕は気づいていなかった。
「どうぞ本人とじかに話す努力を続けてください。もう戻ってもいいですか」
「ちょっと待って」
 腰を浮かしかけた僕を先生はあわてて押さえ込み、すぐ横のキャビネットに両手をつっこんで大きな紙袋を抱え上げた。
「これを、葺合くんに渡してもらえへんかしら」
 僕は胸に押しつけられた紙袋の中身をのぞいた。中古の指定ジャージだった。
「こんなの、購買部に行きゃいつでも新品が買えるでしょ」
 考えなしに言ってしまってからはっとした。ことはそう簡単ではないのかもしれない。
 葺合は今週も古い体操服を着て授業に出ている。伏見先生はいまだに外周ランニングを続けさせている。彼の脚力は他の教師たちの目にもとまったようだ。
「ちゃんと計測したらええ記録出すんとちゃうか。陸上部に誘ってみるか」
「校則違反をしたままでは、しめしがつかん」
 そんな雑談が職員室で聞かれた。伏見先生は葺合を放免するタイミングを図りかねていた。
「そう簡単なことでもなさそうなの。私にはどうしても話してくれなかったんだけど」
 先生はもじもじとブラウスの裾を指でもんだ。
「今着ている制服かて、裾上げしたらずっとましになるから、いつでも直したげるからて言うてるのに」
 僕は紙袋を先生のデスクに置いた。放っておけない気持ちは本当なんだろう。
 でも僕だっていまだに仲良くなれた自信なんてもてないのだ。
「これは先生から渡された方がいいです」
「けど……」
「もってまわったやり口は嫌うやつだと思います。ど真ん中ストレートで勝負するしかないんですよ」

 教室に戻り、食事中の生徒たちの間をぬって席にもどった。
 今更ながら、それぞれの昼飯の違いにひっかかった。
 手製の弁当を持ってきているのは御影や大宮をはじめ、クラスの6割ほどか。校内で販売されるパンを買っているのが常盤や門真。千林のはおかずが全部冷凍食品。三国のはコンビニ弁当をタッパーに移し替えただけ。住之江は何種類ものサプリメントを持たされていて、錠剤だけで満腹になりそうだ。
 高井田と葺合は教室にいない。葺合は青池でサンドイッチをかじっているのだろう。高井田はどこで何を食べているんだろうか。
 宇多野先生が昼食指導に出てこなくなって久しい。うっとうしいのは買い弁禁止の校則ではなく、同級生の視線なのだ。


2003/05/24 Sat.

 朝からの好天で、昼過ぎには夏並みに気温が上がった。僕は前から気になっていた金魚水槽の大掃除を始めた。ガラスにつく藻類はこまめに掻きおとしているが、たまには底砂もさらってやらないと茶ゴケが大発生しそうだった。
 車庫の前にしゃがみこみ、たらいに入れた砂をじゃらじゃらとかきまわしていたら、御影が姿を見せた。
 小学校低学年の頃は毎日公園を走りまわって遊んだ仲だったが。最近の訪問は親の使いがもっぱらだ。
「ご苦労さんね。妖怪小豆とぎ」
 へその見えそうなチビTシャツの胸元に、ラップをかけた大皿を両手でまっすぐ支えている。その下には、膝上丈のスパッツ、まっすぐな脚とミュールをはいた素足。
 僕はうつ向いてたらいの水を乱暴に流した。
「やだ。足がぬれるじゃない」
「いくら家が近いからって、部屋着で出てくんなよ」
「変な目で見たら、おばさんに言いつけちゃうからね」
 脅し文句を無視してもう一度たらいに水を張った。
 御影は鼻を上に向けて勝手口にまわっていった。すぐに台所から「おすそわけ」とか「初物」とかにぎやかな話し声が聞こえてきた。
 力をこめて水をかきまわしたら、しぶきが跳ねとんだ。それがたまたま通りかかった男の人のズボンに数滴かかってしまった。僕はあわてて立ち上がった。
「すみません!」
「かめへん。もともとヤスモンやし」
 男の人はあっさりと手を振ったが、声は不機嫌そうだった。そのまま歩き去ろうとして、何か思いついたように引き返してきた。
「きみ、ひょっとして西中の生徒か?」
 僕は黙って濡れた手をTシャツの裾で拭いた。男の人は父さんより少し若そうだが、体格はずっと大きい。ネクタイを緩めてワイシャツの襟をはだけているので太い首がむきだしだ。まくりあげた袖からは毛の濃い筋肉質の腕がのびていた。セールスマンや宗教関係者には見えないけど、なんとなく殺伐としたにおいがした。
「別に怪しいもんやない」
 僕の態度をとがめるでもなく、男の人は小脇にかかえた背広の内ポケットから革表紙の手帳を出してつきだした。
「警察のもんや。ちょっと話聞かせてぇな」
 手帳はせっかちに引っ込められたので「堂島順慶(どうじまじゅんけい)」という名前と「巡査部長」という階級しか読めなかった。
「警察の人が中学生に何のご用ですか?」
「最近、このへんで盗難事件が増えとってな。電動自転車とか、ミニバイクがほとんどやねんけど……学校のなかでも何か盗られた、のうなったいうことはないか?」

らす・きあ蛇足話その10 オレンジリボン

 11月は児童虐待防止推進月間です。

 オレンジリボン運動と児童虐待防止についてはこちらからご覧いただけます。

子ども虐待防止「オレンジリボン運動」

 児童虐待というとマスメディアでは死亡や大けがといったセンセーショナルな取り上げられ方が多くて、「大変そうだけど、直接関係ないし」という印象を持つ方も多いかと思います。
 でも、大人の気分や都合にふりまわされていやな思いをしている子や、素直に育ちたい、遊びたいという気持ちを聞き入れてもらえない子はどこに行ってもいると思います。
 大人の側に、ちょっと気をつけてみつけてあげようという気持ちさえあれば。
 めだったイベントのない11月にちょっとだけ考えてみてあげてもらえませんか。
 もうすぐ、家族や大好きな人のそばにいられないこどもたちにとって厳しい季節がやってきます。

ブログの動画再生機能

 ブログの機能をいろいろ試してみようと思い立って、動画のアップロードに挑戦してみました。
 以前、いただきものの生バジルの葉にひそんでいた蛾の幼虫さんです。青虫の苦手なかたはご遠慮くださいね。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第9回

 六十歳を越えているように見えたのは、渋を塗ったように固くしわだらけの肌のせいだろうか。ぺらぺらの黄色いTシャツに赤いチェックの綿シャツを重ね着して、首には温泉旅館のロゴのはいった手ぬぐいを巻きつけていた。縞柄の野球帽はひさしの端がほころびて芯のボール紙がはみだしていた。
 男の人は呆然とたちすくんだ僕を振り向いて目をすがめた。竿を置いて大儀そうに腰をのばし、ズボンの尻ポケットからたばこの箱と百円ライターをひっぱりだした。
 いがらっぽい煙の筋が流れてきた。僕は制服の袖で目元をぬぐった。
 男の人は手すりにもたれてたばこをくゆらしながら空を見上げた。身長は僕とさほどかわらない。もしかしたら父さんと同世代かもしれない。
 小島の祠の前には昨日一昨日と同じように畳んだクロスが置かれていた。
「ここんとこお参りしてくれとんは、坊け。」
 しわがれ声で話しかけられて、こくんと頭を下げた。
「お供えの後かたづけは……おじさんがしてくれてたんですか」
「わいは竜神さんの神主や」
 男の人はすまして言った。
「カラスや猫がたかる前に掃除したっとう。こんなビニールかぶせても屁のつっぱりにもならんさけな」
「今までお会いしたこと、なかったですよね」
「野暮用で十日ほど留守しとったんや。その間にこっちに通うようになったんけ」
「はあ……」
 僕はふわふわした足取りで小島にかかる橋を渡った。クロスを鞄におさめて、そのまま祠の前にすとんとしゃがみこんだ。
「……お世話をかけました」
「礼を言うのはこっちやろな。けど、朝からチーズやらソーセージやらは胃にもたれるわ。この歳になるとな。次からはミカンだけでええで」
 男の人は指が火傷するぎりぎりまで吸ったタバコを地面に落としてゴム長で踏み消した。
「そいで、神さんには何をお願いした?青池の竜神さんの御利益は確かやで」
「お願いですか……」
 僕は願いごとをしていたのか。何を期待していたんだろうか。
 頭の中は脳味噌が気化してしまったみたいにからっぽで、ちゃんと機能している実感がなくなっていた。
 膝をかかえて見下ろした水面がじんわりとにじんだ。もう一度ごしごしと目をこすった。水面に映ったクロマツの木の影が風にゆらいだ。さわさわと柔らかい葉ずれの音が降ってきた。
 木の影をぼんやりと眺めるうちに、茂みに隠れるように何かがいるのに気がついた。はじめはカラスかと思ったが、もっと大きいようだ。
 影からたどってゆっくりと顔をあげた。池の外周からは見えない角度。クロマツの太い枝の上に葺合がいた。片膝をたてて顎をのせ、ゴルフ場のある小山のあたりを眺めていた。また風が吹いて、置物のように動かない彼のざんばらに切られた前髪をなびかせた。
 そのまま何分ぐらいじっとしていただろう。
 葉ずれの音にヒヨドリのさえずりがかさなった。
 僕が立ち上がったのにあわせるように、葺合も枝の上で身じろぎした。自分の背丈より高いところから無造作に飛び降りてかろやかに着地した。僕など目に入っていないみたいに、つかつかと祠に歩み寄り、格子戸を開いて片手をつっこんだ。
 遠慮のかけらもない動作にどきりとした。ご本尊の横から引っ張り出されたのは白いレジ袋だ。確かに食べ物の隠し場所としては一番安全かも知れない。
 葺合はそれを持って、水辺の手すりにひょいと尻を載せた。両足をぶらぶらさせながら袋から市販品のサンドイッチを取り出した。
 僕も並んで座ろうとしたが、手すりは中途半端な高さで足が地面に届かない。落ちないようにバランスをとるのがやっとで、弁当をひろげるどころでなかった。
 あきらめて葺合の足元に腰をおろした。
 目の前で揺れているレジ袋は近くの農協直営スーパーのものだ。値引きシールを貼ったサンドイッチがもう一袋はいっていた。閉店直前のタイムセールで買ったのだとしたら、昨夜のうちに消費期限を過ぎてしまっているはずだが。
 僕は弁当箱の蓋に卵焼きとキンピラを載せて持ち上げた。
 葺合はそれを無視して、僕の鼻先にサンドイッチを一切れ、突きだした。
 黙って受け取ってかぶりついた。レタスがしなびて、パンがちょっとぱさぱさしていた。
 葺合はサンドイッチが僕の腹におさまるのを見届けて、かすかに息を吐いた。
 そうして僕がずっと捧げ持っていた弁当箱の蓋を手にとり、卵焼きをつまみあげて口に放り込んだ。
 少し間をおいて、今度はキンピラに手を伸ばした。細切りのニンジンとゴボウをきれいにさらえて、名残惜しそうに指についた汁をなめた。
「もっと食べる?」
 僕の申し出には首を横に振り、目をそらしたまま前髪をかきあげた。
 何か言おうとしたのだろうか。開きかけた口をすぐに閉じて、への字にまげた。少し首をかしげ、また動かなくなった。
 そっと見上げて葺合の顔をのぞきこんだ。一瞬、その目が潤んでいるように見えて焦った。すぐに気のせいだとわかったけど。
 野球帽のおじさんは対岸で火箸とバケツを持って吸い殻拾いをしていた。葺合が食べ終わると、見計らっていたように島に渡ってきた。二本目のタバコをくわえながら、鉤つき竿を放り出した。
「ほれ。缶拾いかわれ」
 葺合が口をとがらせた。
「『この池はわいのショバや』言うて、ひとの道具まきあげとって、勝手ぬかすな」
「肉体労働は加減せんとやっとれん。年寄りをいたわれ。もうちぃとしたら、もっと部のええ仕事世話したるけ」
「自分の仕事もようみつけんとって、あてになるか」
「わいはここの神主や言うとろうが」
 おじさんはタバコを舌にはりつけたまま、へらっと笑った。
「お前には住所と電話と体力があるやろ。よそ様に使われて人生経験してこい」
「くそ爺ぃが」
 罵り言葉のはずなのに、なんだか間の抜けた口調だったので、ちょっと笑ってしまった。そんな僕を見て、葺合も少しほっとしたようだ。
「……お父さん?」
「アホぬかせ」
 弁当箱の蓋で、こつんと頭をたたかれた。
 痛くはなかったけど、びっくりして箸を落としそうになった。
 おじさんがのけぞって、けらけらと笑った。
「しゃあないな」
 葺合は手すりからぴょんと降りたって竿を拾った。僕も弁当箱を鞄に片づけてズボンをはたいた。仕事のじゃまはしたくなかったし、これ以上気を遣わせたくもなかった。
「帰るよ」
 歩きだした僕の背後でおじさんの声がした。
「ほれ、挨拶くらいせんかい」
「うっさいわ」
 振り向いて軽く手を振った。
 葺合も肩まで片手をあげかけてすぐに横を向いた。
 それだけで十分だと思った。
 国道につながるあぜ道を歩きながら、ふと思った。
 彼は中間テストの勉強をしていないんだろうか。


2003/05/23 Fri.

 テストは午前中で終了した。午後からは学年集会と大掃除が予定されている。
 昼休み、葺合はいつものようにするりと教室を出た。いつもと違って廊下で一度立ち止まり、中窓越しに僕を見た。
 後を追いかけようと立ち上がった僕の肩に誰かが手を置いた。
「壬生先生が呼んでるよ」
 御影だった。僕はその手をふりほどいて出口に向かおうとした。ほんの数秒のロスだったのに、葺合はもういなくなっていた。
 むすっとした僕を見て御影が半歩さがった。 
「……保健室で待ってるって」
 ブッチしても何も言われないだろうけど。
 壬生先生には借りがひとつある。しかたない。

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