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2010年2月の記事

らす・きあ蛇足話その26 一人称視点

「ラス・キア」シリーズは今のところ、一貫して聡の一人称視点で書き綴っております。
作品内世界をすべて、中学1年生〜高校2年生の少年の目というフィルターを通して読んでいただいていることになります。
当然ながら、滋をはじめとする他の登場人物の心理や行動の解釈も聡の主観ですし、客観的に見れば当然気がつくはずのものごとでも、聡が認識していなければスルーしてしまうこともあり得るわけです。
一応ミステリ的な味つけもしているので、読者さんにも聡と一緒に真実をさぐっていただくという趣向ですし、聡自身も自分のことは自明のこととして、わざわざ語っていないことがまだまだあります。
語り手に感情移入できなければ、かなり読みにくいかもしれませんね。
ムシや植物に関心が傾いている上に、異性に対しては笑ってしまうほど鈍感な子ですし。
こいつ、何考えてるんだろう、くらいの距離感でおつきあいいただくのがほどよいかもしれません。

おわびと訂正

おでんさんとのコラボで制作させていただいた短編のタイトルについて。

あらためてサイトをチェックしていたところ、タイトルでは「卵焼き」、本文では「玉子焼き」と、表記にずれがあることに(いまさらながら!)気がつきました。

どちらに統一するか悩んだのですが、ネタとなった実在の食べ物は、やはり「玉子焼き」表記でしょうということで、こちらに統一させていただきました。

問題は、私のタイトルを忠実にイラストにいれてくださった、おでんさん。
ごめんなさい!
私の不注意で大変ご迷惑をおかけしました。平に謝罪いたします。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第25回

 キアは僕を脇にどけて、今にもつかみかからんばかりに身構えた。彼がにらみつけていたのは目の前の黄色いTシャツの男ではなく、その背後にひっそり立った四十がらみの男性だった。
 くたびれた半袖のワイシャツにチャコールグレーのスラックス。地味ないでたちでもサラリーマンには見えない。キアを見かえす眼光が鋭すぎるのだ。
「多聞(たもん)。ほんまにこいつか?」
 若いほうの男に聞かれて、年上の男がうなずいた。
「近寄らんでくださいよ。噛みつきますよって」
「ケモノ扱いすんな!」
 キアが叫んだ。男の醒めた表情に変化はなかった。
「犬なみに吠えとろうが」
 キアはこいつと知り合いなのか?
 若いほうは肩をふるわせてひくひく笑い続けていた。
「おもろいやんか。お前に笑かされるとは思わんかったで」
 キアはきつい目をそちらに向けた。
「お前が、江坂か」
「えっ……」
 僕はぎょっとしてもう一度若い男の顔をまじまじと見た。江坂とは校内ですれちがったり、遠目に姿をながめる機会はあったはずなのに。髪を脱色して私服を着ただけで、目の前の男はとても中学生には見えなかった。
 江坂の笑みに初めて邪気がさした。
「今日はここまでや。まあ、これからもよろしゅうな」
 多聞に手で合図してそのまま立ち去ると見せて、いきなり振り向いて羽化したばかりのクマゼミをつかみとり、側溝のコンクリにたたきつけた。
「ああっ」
 僕は我を忘れて道路にはいつくばり、腕をのばした。手遅れだ。すくいあげたものは、ほんの数秒ぴくぴくと脚を動かしていたが、まもなく命をもたないぶよぶよの塊と化した。
「羽化はきれいやったよ。けど、やっぱりセミはうるさいわ」
 江坂はけろりとした顔で言い放つと、多聞を引き連れて今度こそ歩き去った。
 公園の向こう側で急発進する自動車の音が聞こえた。
 僕は側溝のわきに呆然とへたりこんでいた。あたりが静かになってからのろのろと顔をあげると、キアが僕の手元を見つめていた。
 僕が手のひらに載せた塊を見つめていた。
 その顔は凍りついたように表情がなく、セミの死骸と同じくらい青白かった。
 キアが見ていたのはセミでも僕でもなかった。僕はこの顔を知っている。前にも見たことがある。いちばん大切なものを失った人の顔。
 うわんと耳鳴りがして気分が悪くなった。どうして僕がそんなことを知っている?どこでそんなものを見た?
 キアがさきに我に返って僕の腕をつかんだ。僕の顔色も同じくらい青ざめていたのだろう。公園の静寂をやぶってヤブキリが無遠慮に鳴き始めた。


2003/08/06 Wed.

 午後、ふたりでJRの踏切をまたいで駅の南へ出かけた。
 住宅地のはずれでは大きな池を半分ほど埋め立てて造成工事がすすめられている。新しい公園ができるそうだ。水を抜かれた池の底、キャタピラの轍が走る泥んこに、腐った水草と小魚の死骸が埋もれていた。岸辺をコンクリで固めた清潔な池に水を入れ直したとき、いったいどんな生き物が住み着くのだろうか。
 工事現場の隣にはひと足先に図書館の分室がオープンしていた。南側の壁面がほとんどガラス戸で広いテラスのついたぴかぴかの建物は、震災で傾いだままの木造住宅に囲まれて浮きまくっていた。がらんとした駐車場とぎゅうぎゅうに混雑した駐輪場の裏手には、まだまだ広い水田が広がっていた。
 朝から断続的に強い雨が降っているせいで、空気は湿りを含んでぽってりと重い。カエルをさがすにはちょうどいい案配だ。
 タモ網を構えてゆっくりとあぜ道を歩いていくと、緑色の稲株の陰から跳ね出すやつがいる。そこへすかさず網をかぶせて竿をひねる。
「今度はでかいトノサマだ」
 さっきからつかまるのはトノサマガエル、ツチガエルにアマガエル。ダルマガエルがいないかと捜しているのだが、まだ一匹もみつからない。
 僕が網を裏返して逃がしてやったカエルを、キアがさっと素手でつかみとり、両足を持ってぶらさげた。
「たいして肉はついてへんな」
「……食べるの?」
「もも肉な。ウシガエルやったら高級やけど、今日はみつからんな」
 残留農薬が心配だと言いかけてやめた。冗談なのか本気なのかよくわからなかったから。
 足を放してもらって手のひらに載せられたカエルは、すぐに跳びおりて田んぼに消えた。

 江坂と出会って以来、キアは僕が外出するたびにぴったりはりついて護衛を務めるようになった。直接暴力に訴えてくるようなタイプじゃないと説明しても、なかなか納得してくれなかった。
 これからのことは相手の出方次第だ。あいつら今頃は僕らをどう利用するかじっくり考えているんだろう。ゆかいな状況ではなかったが、そればかり気に病んでいてもしかたない。
 ムシやカエルを追いかけて遊んでいる間は、キアも見かけ無邪気につきあってくれていた。
 一学期に比べれば、キアはずいぶん朗らかになった。けれども、夜の公園で見た凍りついた顔は忘れられない。僕の見まちがいだったと思いこもうとしたが、うまくいかなかった。かえって他のことまで思い出しそうになって、それが何なのかわかるよりさきに押し戻すのに苦労した。

 用水路の傍に並んで立ち小便をした。ふたりともまだ「生えていない」ことを確かめて、なんとなくほっとした。
「また降り出しそうだな」
 僕は今にもはち切れそうに垂れ込めた雲を見上げてつぶやいた。
 そのとき、いきなり足元がゆらりと動いた。
 キアがびん、と背をのばした。
「地震や」
「えっ」
 僕は自分が立ちくらみでもしたかと思ったのに。唇をひきむすんで図書館の建物めざして駆けだしたキアをあわてて追いかけた。
 僕らが駆け込んだ時にはもう1階ロビーの大型TVの前に図書館中の人達が集まっていた。
 平和祈念公園の中継映像にニュース速報のテロップが重なり、しばらくしてスタジオに切り替わった。地方局のアナウンサーが臨時ニュースを読みあげはじめた。
 震源地は県の東部。この付近の震度は二。津波の心配はなし。JRは一時的に停車したがすでに運転を再開……
「震度二やて。そんなもんやった?」
「もうちょっと強かった気ぃもしたけど」
 たいした被害は出ていないとわかると、TVの前の女子高校生たちがおしゃべりを始めた。
「うちらへん、前の時は五強やった。本棚がひっくり返って往生したわ」
「私の家は大丈夫やったのに、お隣の屋根から瓦が落ちて、植木鉢を割ってもたんよ。弁償せえとも言われへんし……」
「お父さんたちが神部のおばさんと電話が通じへんゆうて、車で出かけようとしてん。そしたら、真っ黒い煙がもくもく上がるんが見えて、びっくりしたて。まるで戦時中の大空襲の時と同じ……」
 砂でも噛んだみたいに口の中がざりざりして気分が悪くなった。
 僕の横ではキアが食い入るようにニュースの映像を見つめていた。
『……俺はこのへんで生まれてんで……六歳で引っ越してん……』
 こいつは八年前の大震災を経験しているんだ。
 僕はTVに背を向け、画面にかじりつく人たちの肩にぶつかりながら混雑を抜け出した。
 出入り口のドアを思い切り押し戻したら、閉まるとき予想外に大きな音をたてた。
 受付の女の人が眉をひそめるのがガラス戸越しに見えたが、僕はぷいと横を向いて大股でテラスの外に出た。

らす・きあ蛇足話その25 にっぱち

立春を過ぎたとはいえ、寒い日が続いています。
「墓守虫」世界は夏真っ盛り。ちょうど半年ずれていますので、どうぞ全感覚の想像力を駆使してお読みください。
物語は短い小休止を経て、いよいよ後半戦に突入します。三作分の伏線も回収にかかりますので、今のうちに「脚高蜘蛛」「鳥杜」を読んでおいていただくのも一興かと思います。(宣伝です)

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第24回

 キアはちょっと口の端をまげた。Tシャツを頭からかぶり、生乾きのジーンズに足を通した。
「そろそろ戻るわ。昼の手伝いを始めんと」
 僕は放り込んだばかりの板きれをたき火から蹴り出してつきかけた火を踏み消した。
「なんか、販売店の奥さんにこき使われてないか?ちゃんと給料もらってる?」
「ただ飯食わしてもうてるぶんやからな」
 以前から気になってはいた。キアはどうやら、ちゃんとした契約書を取り交わさずに働いているらしい。葺合家の父親は、息子のバイトを気にかけていないんだろうか。
 僕はキアの家族のことを何も知らない。たまに探りをいれても何も教えてはもらえない。
 さっきのようにぽろっと話がこぼれることはあるけれど、それもすぐに切り上げられてしまう。
 残り火に砂と海水をかけて帰り支度をしている間に、どこからか、けたたましい音楽が聞こえてきた。
 堤防にあがるとドラムスやキーボードの音がさらにやかましく響きわたった。騒ぎの出所はコンクリの斜面沿いに停車した、あざやかなレモンイエローの大型乗用車のようだ。
 助手席のシートを倒して寝そべっていた男の人が、半開きのドアを革靴のつま先で押し開き、ひょこりと降りたった。
 中肉中背。ほとんど白くみえるほど脱色した髪に深紅のメッシュ。生成のサマースーツは、たぶん麻だろう。車に負けないくらい派手な黄色のシャツと紫色のネクタイにぎょっとしたが、トータルでみると、それなりに着こなしている。僕らを見上げた顔は思ったより若かった。
 どこかで見かけた気もするが、とっさには思い出せなかった。
 男の人はクマバチが飛び込みそうなほど大きく口をあけてあくびをし、目尻をこすってもう一度こちらを向いた。
 まるで珍しい動物を初めて目にしたように僕らをじろじろと観察していたが、やがてきれいに揃った白い歯をみせて屈託のない笑顔をみせた。
 そうして僕らが地面に降りるより先に、またするりと車内に戻っていった。
 乗用車は耳のこわれそうな排気音をたてて急発進し、タイヤを軋ませながら方向転換して海沿いの道を走り去った。
「なんだったんだ、今の」
 キアは僕の当惑にはこたえず、眉間に皺をよせて車の走り去った方角をにらんでいた。


2003/08/02 Sat.

 うだるように暑い午後が続いていても、日没の時間は少しずつ確実に早くなっている。
 僕は刻々と暗くなっていく空の下で、児童公園の脇の歩道をゆっくりと歩いていた。
 マテバシイの若木が公園の周囲を縁取るように植えられていて、その外側には歩道との境界線上に側溝が掘られている。U字型のコンクリートブロックが埋め込まれた溝の中を、懐中電灯で照らしながら見てまわった。
 落ち葉やゴミが溜まったあいだに時折がさがさと動くものがいる。それをつまみあげては手近な木の幹にとまらせてやった。クマゼミの幼虫は鎌形の前肢とか細い中後肢をじたばた動かしたが、樹皮に触れるとしっかりとしがみついて幹をよじ登っていった。
 五、六匹くらいサルベージしただろうか。一匹が僕の腰くらいの高さのところで動かなくなってしまった。
 こんなところにいたら周囲から丸見えだ。鳥がねぐらに帰っても、トカゲや猫の類はいくらでもうろうろしているのに。
 公園をぐるりと一周して戻ってきたときにも、そいつは同じ場所にじっとしていた。
 すっかり日は暮れたが、街頭の灯りに照らされて、幼虫の泥をかぶった背中がはっきりと見えていた。
 腰を落として観察を続けていたら、背後に誰かが近づく気配がした。
 てっきりキアだと思って確かめもせずに話しかけた。
「セミの羽化、見たことある?」
「セミノウカ?なんやそら。ここで見れるんか」
 返ってきたのは聞き慣れないしゃがれ声だった。
 驚いて振り向くと、若い男の人と目が合った。昨日、海辺で見かけた人だ。
 僕のとまどいをよそに、男の人はまた白い歯をみせてからっと笑った。
「さっきから見とってんけど、ようわからんかってな。ここでいったい何しよんや。何か拾い集めとったんか?」
 僕は背をのばして相手と向き合った。ノースリーブの黄色いTシャツにじゃらじゃらと鎖をぶらさげたカーキの綿パン。一見ラフに見えて仕立ては良い服だ。その手のブランドものか何かなんだろう。
 ずっと見られていたと聞いてちょっと気持ち悪かったが、男の人は何の悪気もないみたいににこにこ笑いかけてくる。邪険な態度をとるのも気が引けた。
「地面から出てきたセミの幼虫が、ときどき側溝に落ちてしまうんですよ。拾い上げて木にとまらせてやってました」
 男の人は不思議そうにあごをしごいた。
「セミぃ?あの毎朝騒ぎよるやつか。なんで助ける必要があんねん。それでのうても、やかましいてかなわんのに」
 不必要に大きな声を出されて、僕は首をすくめた。
「待ち合わせの間に、ちょっと気にかけただけです。目の前で死なれるのもいやだから」
「そんなもんかいな。で、さっき言うとった『センノーカ』って何や」
「羽に化けると書いて『羽化』ですよ。幼虫が今から脱皮して大人のセミになるんです」
 僕はさっきからぴくりとも動かない幼虫を指さした。
「それをじーっと見てる気ぃか。ひまやな」
「始まってしまえば一時間ほどのことです」
 話をしている間に、幼虫の背中に細い亀裂が生じていた。
 こいつは時間が差し迫っていたので高所へ登ることを断念したのだろうか。
 僕は黙礼して話を切り上げ、マテバシイの根元に膝をついて、幼虫をじっと見つめた。
 男の人は立ち去ろうとしなかった。両膝に手をおいて僕の肩越しにのぞきこんできた。
 亀裂は徐々にひろがり、茶色く乾いた殻の中から白くみずみずしい身体がゆっくりゆっくりと盛り上がってきた。胸部に続いて大きな目のついた頭が現れた。
 殻を離れた上半身が大きくのけぞった。六本の脚が胸部の内側に畳まれているのがあらわになった。腹部の先だけでぶらさがっているので今にも落ちそうに見える。頭の下のふたつのこぶがゆるゆるとほどけてひろがり始めた。
 さかさまにぶらさがったままどれくらい時間がたっただろう。セミは前触れなしにくいと身体を起こし、前脚で脱いだばかりの殻につかまった。するりと腹部がぬけて、成虫の全身が姿をあらわした。
 僕の肩に手を置いた男の人が、深いため息をついた。
 うす緑の羽がさらにひろがり、透明度を増して輝いた。
「烏丸!」
 鋭い声に呼ばれてはっとした。
 道路の角にたったキアが、険しい目でこちらをにらんでいた。
「どうしたの……」
 僕の肩に置かれていた手がすっと動いて首すじにまわされた。圧力は全然かかっていなかったが、なでられた感触にぎくりとした。
 キアがダッシュしてきて僕の肩をつかむのと、男の人が飛びのくのがほとんど同時だった。力まかせに引き寄せられてバランスを崩し、僕はキアの胸に抱きかかえられるように倒れ込んでしまった。
 男の人は軽やかなステップを踏んで後ろへさがり、道路に尻餅をついたキアとその上に乗った僕を見て楽しそうに笑った。
「ええなあ。セミもおもろかったけど、君らもええ味しとうで。ほんまに西中始まって以来の秀才と、淡路を蹴倒したケンカ屋なんか?」
 腹の底がずんと冷たくなった。この人は僕らの噂を知っている。いったい……

らす・きあ蛇足話その24 試聴

「勝手にBGM集」を入力していて気がついたのですが、熱帯雨林書店さんのサイトにリンクする仕様になっているので、そこから曲の試聴ができるのですね。
もちろん、曲目によってはできないものもありますし。(Adiemus、Enya、Mike Oldfield、芸能山城組はだめでしたね)
アルバム単位の登録なので、たとえばドビュッシーの小組曲のメヌエットがお目当てでも、アルバムの曲目一覧のなかから3番目を選んでもらわないと、という面倒臭さはあります。
まあこの形式だと興味のある人だけ聴きにいってもらえるし、著作権上の問題もなさそうだし、しばらく使ってみようかと思います。

しかし、こうして並べてみるとジャンルはばらばらですね。クラシック、ロック、ニューエイジ、ゴスペル、童謡、サントラ、三味線……
聴いてみてもらえれば好みははっきりしていることがおわかりだと思いますが。

ハート♡ハート

gremzが大人の木に育ったのはうれしいのですが、今回なぜかハート型です。
バレンタイン限定企画なんでしょうか。
今日あたりから背景にもハートが飛んでいて、なんだかとても恥ずかしい状況になっています。
ブログ全体のデザインがシンプルで渋めなので、このコーナーだけ浮きまくっているような……。
あと3日の辛抱ですよね、gremzさん。ねっねっ。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第23回

 キアはちょっと髪をかきあげて、僕の耳にぼそぼそとささやいた。
「すごいよ。それなら安土先生のグラフでも真ん中より右だろ」
「俺はな。けど、住之江はさっぱりやったみたいやな」
「……僕の戦略ミスだ。なんとかやりなおさなくちゃな。千林は?」
「始めっから何もなかったふりすんのに必死こいてんな。お前が休んどった間、アホみたいにテンションあげよった」
「テンパったままひきずらなきゃいいんだけど」
 住之江のことと同じくらい千林の心配をしている自分に驚いた。
 いつの間にか、勝負の目的は楠さんの仇討ちではなくなっていたみたいだ。
 キアは肩をすくめて、部屋の隅の水槽に視線を移した。
「単純な魚やな」
「和金だよ。はじめは三匹いたんだけど、二匹死んじゃった。」
「色が赤いだけでフナかハスにしか見えん。チビのくせにでかい水槽に入れてもうて」
「こいつが育ちやすいようにと思って、母さんの友達にもらったんだ」
「のんきなこと言うて、どんどん大きなったらどないするんや」
「その時はもっと大きい水槽を買うしかないだろうなあ」
 信じられないという顔で振り向かれてしまった。
「いや……そうなったら痛い出費だろうけどさ」
「金魚すくいしたら、ただコで一匹くれるやつやろ」
「うちで飼い始めた頃の大きさなら三十円くらいで売ってるけど。それが?」
 キアは一瞬、泣きたいんだか笑ってるんだかよくわからない顔をして、水槽に手のひらを押しあてた。
「運のええやっちゃな」
 僕は本棚から手垢のついた文庫本を一冊ひきぬいて差し出した。
「よかったら、読んでみる?」
 キアはちょっととまどったが本を受け取り、ぱらぱらとページをめくった。
「……フンコロガシ?……」
「……えっと……興味ないなら……」
 まずい。調子に乗って、自分の趣味を押しつけてしまった。
 僕が表情をかえたことにすぐ気がついたのだろう。
「借りとくわ。ええな」
 キアは急いでそう言って、「昆虫記」をジーンズのポケットにつっこんだ。
 その時、階下で玄関の扉を押し開ける音がした。
「聡?起きてるの?」
 母さんの声を聞いて、キアの顔がふっと曇った。
 半開きのドアの外の階段と、ベランダに転がったスニーカーを見比べて唇を噛んだ。
 僕はその耳元に寄って声をひそめた。
「はいってきたとこから帰っていいよ」
「けど……」
「西側にまわれば、玄関や台所からは見えないよ。僕がごまかしとくから」
 キアがベランダから飛び降りるのにタイミングを合わせて、わざとどたどた音をたてて階段を駈け降りた。
「お腹すいたよ!母さん、遅かったじゃないか」


第四章 クマゼミ

2003/08/01 Fri.

 リビングの掃き出し窓にまぶしい朝日が射しこみ、クマゼミがしゃわしゃわと無節操に鳴きわめきだした。
 僕は金魚の餌やりとプランターの水やりのあと、トーストを食べながらのんびりと新聞に目を通した。
 ミルクティーを飲み干しておもむろに時計を確かめ、サンバイザーをかぶって外に出た。
 梅雨が明け、洗われたみたいに青く透明になった空。山の向こうからむくむくと頭をもたげる白い雲。ミツバチがせわしなく頭上を飛んでいった。
 庭木の緑はいちだんと濃く、道ばたのヨモギやノゲシの丈は高く、ぼうぼうと好き放題に茂っている。肩や胸が太陽の熱で火照ってくると、僕まで光合成しているみたいに心地よい。

 ひとりでに足取りが軽くなって、僕は飛び跳ねるように坂道を走り出した。アスファルトの上でくっきりとした影が躍る。
 国道をわたったところでキアがひょいと後ろについた。
 朝の仕事を終えたばかりだろうに、やすやすと僕を追い越し、振り向いて笑った。
 追いかけっこをしながら古い住宅地を駆け抜けた。今日の目的地は漁港と海水浴場にはさまれた海岸だ。

 堤防に刻まれた狭い階段をのぼり、テトラポッドの上をとびとびに伝って反対側に降りる。防波堤が肋骨のように突きだした間に砂利や土砂がたまっていて、空き缶だのペットボトルだの壊れたハンガーだの柄のとれたポリバケツだのがコウボウシバにからまって散乱していた。
 ゴミを踏まないようにすりぬけて波打ち際まで歩いた。
 引き潮時なので幅一メートルほどの砂浜が姿を現し、沖一文字の防波堤の前には、それなりに青い海が広がっていた。
 キアはTシャツを脱ぎ捨てると、膝から下を切り落としたジーンズとスニーカーを履いたまま、ざぶざぶと海にはいっていった。足が届かなくなると、ぷかりと身体を浮かし、腕をのばして泳ぎだした。
 頭と肩口が波間に見え隠れしていると思ううちに、すっと頭が沈んでそろえた両脚がぴんと水面に直立した。その脚も串を通すようにすんなりと下がって消えた。
 一分ほどしてざばりと顔をあげ、ひゅうと息を吸ってまた潜る。
 僕は砂浜を両手で掘り返して、うにうにと出てきたウジのようなムシをつかまえた。ユムシの仲間なのだろうけど、大きさは僕の小指の先くらいしかない。延べ竿にテグスをむすび、先っちょの釣り針にムシをひっかけた。潜っているキアのじゃまにならないあたりまでちゃぶちゃぶと波を踏んで歩き、防波堤の根元めがけて竿を振った。
 水底をこするくらいのつもりでゆっくりとたぐり寄せてみた。何もかかっていなかったのでもう一度投げ込んだ。今度は引きがあったと思ったら、釣り上げたのはポリ袋だった。
 キアがざばざばと波を蹴散らして戻ってきた。
 腹をひっこめてジーンズをぐいと裏返すと、小石のような巻き貝がひとつかみ、ぼとぼとと砂浜にこぼれ落ちた。
「ニシや」
 コンクリの破片の上に貝をのせて小石で殻をたたきわり、ぷるぷるした身をそのまま口に含んだ。磯の香りと甘い肉の味が舌から鼻にぬけた。
 ゴミの中から側板のへこんだ三段ボックスを拾ってきて、棚板を踏み壊した。
 ぎらつく太陽の下でルーペをかざし、新聞紙に火をつけて合板を炊きくべた。塗料のこげる刺激臭がつんとたちのぼった。
 胸がぞわっとして、あわてて身をひいた。
「これじゃあ貝は焼けないなあ」
「持って帰って味噌汁にいれたらええで」
 キアは脱いだジーンズをぎゅっと絞ってひろげ、たき火にかざしてひと振りした。
「ゴミが増えたな。七、八年前にはもっと魚もおってんけどな」
「そんな昔のこと、知ってるの?」
「俺はこのへんで生まれてんで。六歳で引っ越してん」
「へえ。入れ違いだね。僕は小学校にあがるときにこっちへ来たから」
 道理で土地勘があるわけだ。
 川の中州に草っ原に牛小屋に養鶏場。この二週間ほどのあいだに僕が教えてもらった遊び場を数えるには両手の指がいる。
 それでも震災後の宅地開発のせいで、同じくらいの数の穴場がつぶされたとキアは言う。
「そんなに小さいときから、ひとりで出歩いてたの?」
「四つぐらいまでは親父に連れまわされてたな。ここの海も、自転車の前に乗っけられて坂をおりてきた……」
 キアはそこで口ごもった。
「……住之江とは連絡取れたんか?」
 僕は板きれをもう一枚たき火に放り込んだ。
「電話しても出るのはいつもお母さんだし。塾も車で送迎されてるし。とりつく島もないよ」

「勝手にBGM集」をまとめました

 今まで「無駄話」「蛇足話」のなかで紹介してきた執筆時BGMをまとめてブログの右サイドバーに掲示しました。
 ジャンルも発表年もアーチストもばらばらでお見苦しいのですが、ぼちぼち整理していきます。
 クリックすると密林書店に飛んでしまいますが、ブログの仕様らしいのであまり気にしないでください。

らす・きあ蛇足話その23 お笑いネタです

ムシえさつかみ「御影」

>通常より強く挟むと「グタァ~」となってしまいます。

のだそうです。

 なんだかアオムシが幼なじみにあしらわれる聡に見えてしまいました。
 かわいそうに。

写真を追加しました

ギャラリー(ブログのサイドバーではマイフォトと表示されています)の「資料写真」に「鯛のモニュメント」を追加しました。
バックは城址公園です。
JR明石駅の北側に初めて降り立った人は、この鯛を見上げてドン引きするんじゃないでしょうか。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第22回

 リネン庫からタオルを二枚ひっぱりだして、一枚はキアに投げてやった。頭をごしごしと拭き、スラックスの泥はねもなるべくていねいにつまみとった。
「なんでお前が……」
 そう言いかけてキアは急に押し黙り、受け取ったタオルを自分の口元に押しあてた。
 気がついたね。壬生先生は知っているんだよ。

 保健室の鍵をもとどおりに閉めて出入り口に戻った頃には、風雨はさっきよりほんの少し弱くなっていた。
 今度は傘をさして足元に気をつけながら外に出た。
 キアは傘立ての横にひっかけてあった雨合羽をまとって僕の後に従った。
 傘を風上に向けて支えながらゆっくり歩く僕の背後、手をのばせばすぐに届く距離をあけてキアは黙ってついてきた。どちらもひとことも口をきかないままに国道を過ぎ、住宅街の歩道を過ぎ。
 自宅の前までたどり着いてようやく振り返ると、雨合羽はすでに来た道をひたひたと引き返していくところだった。
 今から夕刊の配達に向かうのだろうか。
 巻きこみたくないとか何とか言い訳をして、本当は自分の汚点を知られたくなかっただけ。下手な小細工をしかけて、かえってさんざんな迷惑をかけてしまった。
「……ごめん……」
 聞こえるはずもない謝罪をして、誰もいない歩道に頭をさげた。
 それからもう一度背筋をのばし、普段通りの顔をつくって玄関ドアのノブに手をかけた。


2003/07/09 Wed.

 自分でも言ったとおり、風邪はひかなかった。でも、腹をこわした。

 期末考査一日目は国語、数学、技術家庭。
 症状は嘔吐から始まった。ハンカチを口につっこんでかみしめ、喉の奥からこみあげてくるものを抑え続けた。問題に集中するのが精一杯で、他の連中のことを観察したり考えたりする余裕などなかった。
 休み時間、僕がトイレに駆け込むたびにキアが護衛に立っていたことは、ずっと後になって御影に教えられた。
 その御影が大宮と一緒に住之江のお守りをしてくれていたことは、さらに後になってキアに聞いた。


2003/07/10 Thu.

 嘔吐に続いて、下痢がはじまった。
 家族には隠し通すつもりだったが、朝の牛乳を吐き戻したことでばれてしまった。
 学校を休めと言う母さんを拝み倒し、養護教諭に連絡することを条件になんとか登校させてもらった。壬生先生が母さんに余計なことを言わないかと気になって生きた心地がしなかったが、先生は口止めの約束を守ってくれたようだ。

 期末考査二日目は理科、音楽、美術。
ベルトの下で腸管がのたうつたびに脂汗をたらして痛みをこらえた。 チャイムが鳴るたび保健室から借りた膿盆をかかえてトイレにこもった。


2003/07/11 Fri.

 食事はおろか、水を飲んでも戻してしまう。出すものがなくなっても腹はよじれる。足元がふわふわして雲でも踏んでいるみたいだ。目の周りがぼうっと熱っぽい。唇がひび割れて血がにじんできた。

 期末考査三日目は英語、社会、保健体育。
 ぐったりと机にへばりつく僕をにらみながら、千林はいらいらと鉛筆を噛んでいた。住之江が心配そうに寄ってきたが、相手をする元気もなかった。高井田は全然やる気のない顔をして、消しゴムに鉛筆で穴をあけていた。

 考査全日程の終了後、僕はもう自分の足で立ち上がることもできなくなっていた。
 キアと住之江に両脇を支えられてなんとか保健室に移動し、ベッドに倒れ込んで気を失った。


2003/07/14 Tue.

 ガラス窓にかちり、と何かが当たる音がした。
 ベッドから頭をもたげて外を見た。
 きつい西日のさすベランダに、ほっそりした少年がしゃがんで窓越しに手を振っていた。
 僕は急いで布団を抜け出し、サッシ戸の鍵をあけた。
「そんなにあわてて動かんでもええで」
「もうどこも悪くないよ。何もする気がしないんで、ごろごろしてただけさ」

 試験最終日、保健室に駆けつけた母さんが、そのまま診療所へ連れて行ってくれた。
 診断は急性胃腸炎による脱水状態。
「なんでもっと早く連れてこなかったんですか。早めに輸液すれば軽くてすんだのに」
 そう医者に言われて、母さんはひたすら頭をさげていた。
 登校を禁じられるのがいやで受診を先延ばしにしたのは僕なのに。
 申し訳ないのと身体がだるいのとで、週末はひたすらベッドで小さくなっていた。
 月曜、火曜とずるずる休んでしまったのは、体調不良というよりは緊張の糸が切れてしまったせいだろう。

 キアはスニーカーのかかとをつま先で押さえて脱ぎ散らかし、僕の部屋に足を踏み入れて珍しそうにあたりを見まわした。
 ベッドと学習机と本棚と洋服ダンス。六十センチ水槽のほかにはありきたりの家具しかない地味なインテリアだ。
 本棚の上にたてかけられたダンゴムシの写真パネルを見上げて、キアはこりこりと鼻の頭を掻いた。その下の棚にごちゃごちゃと詰め込まれた図鑑や生き物の本や小説やマンガを見て、まぶしそうに目をほそめた。
「なんで玄関からはいってこなかったの?」
「一階は留守みたいやったし」
「ドアホンを鳴らしてくれたら……」
「病人たたき起こして階段降りさせられるか」
「大げさだな」
 キアはくすっと笑って手にした小さなビニール袋をつきだした。
「見舞いや」
 袋のなかには見慣れない赤紫色の実がはいっていた。ちょっとつまんだだけでも表皮の柔らかいぶつぶつがつぶれて真っ赤な汁が指についた。
「ありがと。でも、これ何?」
「ヤマモモ。胃腸にええねんで」
 一粒食べると酸っぱい味と大きな種が舌の上に残った。
 種を唇の端からつまみだして、二粒目をほおばった。
「テストの結果は出そろった?」
「常磐が情報をとってきた。お前、音楽は二番やったで。一番は御影」
「……はあ……」
「それ以外は全教科学年トップ。千林には圧勝や」
「……そうか」
 二粒の種をゴミ箱にトスして指先をなめ、ベッドに腰をおろした。
「TOTOはどうなった?」
「火曜日のごたごたのあと、高井田や門真は資金をひきあげてたらしい。場がそろわんようなって、流れてもうた」
「ふうん……」
「今は生徒より先コのほうが騒いどうな。安土がお前の成績を職員室で話題にしたみたいや。クラスどころか、学校中の噂になってもた。宇多野はだんまりやけどな」
「ふうん」
「あんまりうれしそうやないな」
「ほんとに。あんまりうれしくないや。これでもう平凡な一生徒ですって顔はできなくなっちゃったな」
 キアは気のないふりをしながら僕の顔色をしっかりうかがっていた。
 何を心配してくれてるのかはわかっていた。
 どうせ四月の事件については最悪の結果も覚悟していたのだ。今のところ生徒間で多少話が広まっただけのこと。長居と母さんに気取られたようすはない。それだけでも気が休まった。
 僕は両手の指を組んで伸びをした。
「学校のトイレを下痢便まみれにしちまったあとじゃあ、どんな噂をたてられても怖かないさ」
 明日からはちゃんと登校しなくちゃな。
「僕のことはいいけど、そっちは?」

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