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ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第26回

 駐車場のはずれでキアに追いつかれた。
「黙って出てったらわからんやろが」
「いやなんだよ。ああいう話を聞かされるの」
 足元の小石を前も見ずに蹴飛ばした。小石はけっこう高く飛んで街路のサルスベリの木にぶつかり、濃いピンクの花びらを散らした。
 キアはあきれたように鼻の頭をかいた。
「ああいう話て、震災のことか?」
「言っただろ。小学校にはいる前は関東にいたんだから、僕は地震なんて知らない。あんなふうに体験談だの苦労話だのひけらかされるのがうざったいんだ」
「お前が知らんかて誰も悪いとか言うてへんやろ。黙って聞き流しとったらしまいやんか。何けんつくしとんや」
 返事のしようがなかった。自分でもなんでこんなにいらつくのか、わけがわからなかったのだ。
「……顔色悪いで」
 いつもなら素直に聞けるキアのことばが、今日ばかりは僕の神経を逆なでした。
「放っといてくれよ!ガキじゃないんだから、護衛づらされるだけでもいいかげんうっとうしいのに、不機嫌だとか顔色悪いとか、お前の知ったこっちゃないだろ……」
 止めようもなく自分の口をついて出たことばに、ぎょっとした。
 いったい僕は何をしてしまった?
 キアは表情を硬くしたが、怒りも言い返しもしてこなかった。
 ただ黙って僕の前に立ちつくしていた。教師にどなられても、ふてぶてしくにら
みかえすようなやつなのに。
 いっそ悪態つかれてぶん殴られたほうがましな気分だったろう。
 長い沈黙に僕のほうがいたたまれなくなって、その場から小走りに逃げ出してし
まった。
「もう夕刊配達の時間だろ」
 とってつけたように言い捨てて。
 キアは追いかけてこなかった。

 旧住宅街のまがりくねった細い道をあてもなく歩いていくうちに、アップテンポの明るい音楽が聞こえてきた。いつのまにか校区の西端に新しく整備された幹線道路まで来てしまったのだ。
 音楽は道路と同じ時期にオープンした大型スーパーから流れていた。
 僕はカラータイルをあしらった歩道の縁にスニーカーの裏をこすりつけて泥土を
落とした。
 だだっぴろい駐車場に結構な数の自動車がひしめいていて、大きな荷物をかかえ
たカップルやベビーカーを押す女の人、元気のあり余った子供たちがにぎやかに行
き来していた。
 そんな中、ちょっと古めのワゴン車の前に、所在なげにたたずむ中学生がいた。
「長居!」
 思わず大声で呼んでしまった。
 長居はびくっと振り向いて、僕だとわかると安心したように相好を崩した。
「烏丸かあ。おひさ」
「珍しいな」
 こんな人混みのなかに出てくるなんて。
「夏休みだから。母さんの買い物についてきたんだ」
 学校に行っていなくても夏休みは楽しいのかな。そのへんの気持ちはよくわからなかったけど、長居が元気そうなのはうれしかった。
「店には入らないのか?」
「……誰に会うかわかんないし。狭いとこは……」
 逃げ道がないものな。
「VFの新機種がはいったって聞いたから、やってみたかったんだけどさ」
「ここのゲーセンか……」
 僕は長居の肩をぽんと叩いてあごをしゃくった。
「一緒に行こう。ここまできて遊んで帰らない手はないだろ」
「でも……」
 長居は心細げに身をすくめた。この店のゲームセンターには西中生もしょっちゅう出入りしている。
「いちいち気にするなよ。何も悪いことしてないんだから」
 ためらう友達を半ば強引に店舗ビルへひっぱっていった。
 自動ドアが開くとひんやりと乾いた空気が身体を包み、いっぺんに汗がひいた。三階のゲームセンター目指してエスカレーターを駆け上がった。
 さすがに夏休みらしく、フロアは小学生とその母親らしき人たちで混雑していた。甲高い電子音と子供たちの歓声が、店内にきんきんと反響した。
 普段の僕は買い物の待ち時間や妹につきあって遊ぶ程度で、とりたてて好きな場所ではなかったが、今は多少強い刺激で憂さを晴らしたい気分だった。
 しばらく順番を待って、長居がプレイしたがっていた格闘ゲーム機につき、対戦を始めた。
 まずは僕が先制ポイントをとった。相手が周囲を気にして落ち着かなかったせいだが、これが長居の負けん気を刺激したみたいだ。
 本気で集中されると、形勢はすぐに逆転した。
「さすが。年季が違うな」
 長居の表情がほぐれた。
「烏丸に会えてよかった。ほんとは地震のあと、ひとりで留守番してるのが怖かったんだ」
 そう言ってしまってから、顔を赤らめた。
「おかしいだろ。でも、ぐらっと来ると、やっぱ今でもびくついちまうんだよ。お前にはわからないだろうけどさ」
 僕は黙って新規の対戦を開始した。
 長居があわてて参入した。
 画面と手先に神経を集中しようとしても、頭のなかには別の思いがうずまいていた。
 こんな気分になるのは今日が初めてではなかった。
 小学校の六年間、防災訓練だの震災記念日だのの行事のたびに、僕はひとり取り残されていた。
 同級生たちがおぼろげな体験談や親から聞いた話を交換しあっているあいだ。
「烏丸くんは知らないのよね」
 そう先生に言われるたびに黙って下を向いていた。誰も僕にそれ以上のことは聞いてくれなかった。
 ……聞いてくれなかった?何を話すというんだ?
 あっと思ったときには遅かった。ゲームオーバー。僕のキャラは長居の見事なコンボに叩きのめされていた。
 機械を次の人にゆずり、自販機の炭酸飲料で一服した。
「他のゲームもするかい」
「もう帰らないと。母さんも戻ってる頃だし」
「じゃあ、そろそろ……」
 何気なく出入り口を見やってどきっとした。 
 数組の親子連れが楽しげにおしゃべりしながら帰っていく。その向こうにキアがいた。
 泥だらけのタモ網を小脇に挟み、壁にもたれて石のようにじっとしていた。
 僕は目をそらして炭酸を飲み干し、アルミ缶をくずかごに放り投げた。
「悪い。もうちょっとここにいるよ」
 長居はちょっと困った顔をしたが、もそもそとあたりを見まわして中高生がいないらしいのを確かめると、そそくさと店を出て行った。
 途中キアの目の前を通り過ぎたが、西中生だとは気づかなかったようだ。彼が転校してきてから1日も登校していないのだから無理もないが。
 僕は店の隅の古びたゲーム機の前に移動してプレイを始めた。単純な「落ちもの」なので、注意集中を怠らなければいつまでも続けていられた。
 しばらくしてそっと出入り口をうかがった。キアはまだそこに立っていたが、こちらを見ようとはしなかった。
 店内放送で「蛍の光」が流れ始めた。
 僕は出入り口とは真逆の隅へ向かった。大型ゲーム機の並びに狭い隙間をみつけ、店員の目を盗んでするりともぐりこんだ。抜け出た反対側は家電売場だった。
 目と鼻のさきに非常階段があった。降りる前にもう一度後ろを振り向いて……背筋に冷や汗が流れた。
 家電売場のはずれに高井田と門真がいた。
 なにごとかぐちぐちと話しながら監視している視線の先は、ゲームセンターの出入り口のはずだ。あいつら、いつからここにいた?
 階段を駆け下りて駐車場に飛び出した。もわっとした熱気のなか、汗をぬぐいながら走った。
 長居の家のワゴン車はどこにも見あたらなかった。
 もういちど店内にもどろうとして警備員に押し戻された。
「もう閉店ですよ」
 結局キアや高井田たちの消息を確かめることはできなかった。

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