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2010年7月の記事

らす・きあ蛇足話 その51 To be a rock and not to roll

 「墓守虫」もクライマックスへ向けてカウントダウン状態。
 追いつめられた聡くんがどんどん「いやなやつ」になってきております。
 傲慢も被害者根性もまだ中学一年生だから許容範囲、と思っていただければありがたい。逆に、彼のメンタリティを全面肯定できるのは高校生ぐらいまでが限界か、などと作者は考えていますが、いかがなものでしょうか。
 一人称語りの陰に隠れて本音を言わない作者もずるいですね。
 読者のみなさんなら、中一の滋と聡にどんなふうに声をかけてくださるでしょうか。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第47回

「運ばれたけが人は二人。その教師と住之江っちゅう生徒が軽い火傷でな。どちらも避難時の負傷てことになっとる」
「それで済むんですか?」
「済まんやろな。消防には今までのしがらみが無い。学校の対応には、まじで腹たてとるで。警察の尻たたいて徹底的に現場検証する気や。まあいろいろほじくりだしてくれるやろな」
「加害者被害者に直接話を聞けばいいじゃないですか。住之江と、玉出先生と……」
「生徒のほうは、親が知り合いの医者を楯にとって聴取を拒んどる。心理的負担がどうたら言うてな。教師のほうは……まだ話の聞ける容態やない。まあ、この天気や。今日はこれ以上の動きはないわ」
 まだ言いたいことはあったが、両親より先に帰宅しなければならなかった。帰り道の風雨はさらに激しさを増していた。


2003/10/02 Thu.

 登校時間になっても風雨はまだおさまりきっていなかった。。
 母さんが父さんを駅まで送り届ける間、僕は留守番と勇のお守りをいいつかった。少し遅めに届いた朝刊には、中学校のボヤでけが人がでたというベタ記事が載っていた。
 八時前になってようやく警報が解除された。僕はわずかに晴れ間ののぞく空の下、緑色の葉をつけたまま折れ落ちた小枝をまたぎ越えながら、学校まで走りとおした。
 正門をくぐると、グラウンドに人だかりができていた。また救急車が停まっているのを見てぎくりとした。
 旧校舎から担架で担ぎ出されてきたのは淡路だった。ちらりと見えた顔は青あざだらけで、目の周りと唇が紫色に腫れていた。
 僕は救急車を取り囲む人垣から抜け出し、見知らぬ大人たちが出入りしている本館と、黄色いテープを張りめぐらされた旧校舎の間を通り抜けた。新校舎に入ろうとしたところで、大柄な上級生とすれ違った。
 昨日、淡路と一緒に音楽室に乗り込んできた二年生だ。ちらりと僕に向けた顔は青ざめてひきつっていた。声をかけるまもなく、救急車の走っていった方向に足早に歩き去った。 
 
 思案にふけりながら教室に入った。ノートを一冊置き忘れていたことを思い出し、無造作に机の棚をさぐった。とたんにぬるりと冷たいものが指にへばりついた。手にしたノートにはべっとりとマーガリンが塗られていた。
 汚れていないほうの手でポケットティッシュを取り出してノートと指を拭ったが、紙に染みこんだ油分が落ちるはずもなかった。
 
 授業が始まっても、キアは登校して来なかった。今まで遅刻も欠席も一度もしたことのないやつなのに。
 僕以外にそのことを気にとめる者などいない。長居、金岡はもちろん、住之江、高井田、門真、三国、本山に常盤までが欠席していたのだから。
 居心地悪そうに座っているのは、ストレスにめげるほどひ弱ではないが授業をフケるだけの度胸もない中途半端な生徒たちばかりだ。鉤爪も牙も持たない生き物は、身を守るために羽毛をむしりあうことくらいしかできないのだろうか。
 三限目、玉出先生の社会科は自習だった。先生の入院については何の説明もなかった。
 それぞれのグループに分かれて好き勝手な噂話を始めた同級生達から離れ、僕はひとり教室を抜け出した。

 図書室は無人だった。後ろ手にドアを閉め、人の声が聞こえなくなったことでほっとした。周囲の雑音は気にしないつもりだったが、知らない間に気持ちを張り詰めていたらしい。
 ゆっくりと書架をめぐって、隅っこに震災関連の文献を集めたコーナーをみつけた。地元の新聞社が発行したムックを一冊引き抜き、テーブル席について広げた。
 巻末の資料編に、自治体の慰霊碑に名前を刻まれた人たちの名簿が載っていた。
 明智市で十一名。神部市で四千五百六十四名。虹宮市で千百二十六名。味屋市で四百四十三名……。
 細かい文字に指をすべらせながら名前を読んでいった。最後まで目を通し終わる頃には自習時間は終わりに近くなっていた。結局、どこの市町村にも「葺合」という姓の人はみつからなかった。
 僕は本を閉じてその表紙の上に額をのせた。
 さほど意外だとは思わなかった。かえって得心がいったのかもしれない。
 キアの妹と祖母は、震災の犠牲者として公式に数えられてはいない。たぶんなにか事情があって、それには両親の離婚も関係しているのだろう。身内以外の誰も知らない事情。あいつが打ち明けたのも僕が初めてなんじゃないか。
 僕らはどちらも、あの四歳の寒い日から迷子のままなんだ。
 僕の記憶については、両親に聞けばすぐに答えをもらえたのかも知れない。けれど、僕は真実を聞いてしまうことが怖かった。両親は震災以前のことをめったに話そうとしなかったし、僕の前でその話題を出すことを避けているとさえ思えた。
 勇が生まれてから後のことはけっこう話題になっていたから、よけいにそのギャップにひっかかった。
 僕は烏丸篤と理子の息子ではないのかも知れない。
 不安は消えなかったけど、キアはそんなことにはおかまいなしに僕の肩を支えてくれていた。
 極端な話、僕が日本人ではないとか、犯罪者の子だとか、そんなことがわかったとしてもキアは気にかけないだろう。
 烏丸聡でなくてもいい。ここにいる僕はキアが名付けたラスなんだ。
 たとえ全世界が僕らに背を向けても、ふたり一緒なら持ちこたえられる。そう思ったことで、気分がましになった。

 いきなりすぐそばで咳払いが聞こえて、現実に引き戻された。
「マイワールドにはまっちゃうと、まわりで何がおこってても気がつかないのよね。相変わらず」
 御影だった。いつから僕の前に座っていたんだろう。
「何の用だよ」
 つい、ぶっきらぼうな聞き方になってしまった。
「忠告よ。葺合くんとのつきあい、今はちょっと距離を置いたほうがいいんじゃないの」
 相手の返事も負けないくらい無愛想だった。
「どういう意味だよ」
 御影は、わかっているくせに、とでも言いたげに、つんと鼻をあげた。
「ふたりでくっついていたら、どちらの敵も刺激しちゃうってこと。特に今、クラスの連中は担任を怒らせないことに必死だからね。自分たちより目立つやつを前に立たせて息をひそめようとしてる。ワンセットで人身御供にされるのはいやでしょ。まずは自分の身を守んなさいよ」
「友達を見殺しにはできない」
「かっこつけないで。面倒みるほうの身にもなってよ。あんたひとりフォローするんだってぎりぎりなんだから」
 むっとして御影をにらみ返した。こいつはどうして、ここまで人を見下した口がきけるんだろう。僕が相手だと特別ひどくなるのは気のせいじゃない。
「お前にお世話を頼んだ覚えなんてないぞ」
 これには相手もむっとした。
「頼まれてやってたんじゃないもん。一学期だって噂を鎮めるのにどれだけ苦労したと思って……」
 御影はそこであわてて口を押さえた。手遅れだ。僕の頭にかっと血がのぼった。
「そうかい。全部知っててお情けをかけてくれてたってわけだ。おおきなお世話さまだったな」
 女の子らしい端正な顔が泣きそうにゆがんだ。それを見ても僕の腹立ちはますますふくれあがるばかりだった。
「いいからもう放っといてくれ。お前なんかにこれ以上、口出しもおせっかいもされたかない」
 僕が足音も荒く図書室を出たときにも、御影は口元に手をあてたまま凍りついていた。

 教室へ戻って、自分の席のまわりと鞄の中を慎重に調べた。椅子の座面に貼りつけられた画鋲にはすぐに気がついたし、鞄に入れられた砂もマーガリンに比べれば始末は簡単だった。この程度のいやがらせで僕がひるむと思うなよ。そそのかしたやつも、手をくだしたやつも、黙って見ていたやつも同罪だ。まとめて徹底抗戦してやるからな。

スパム

ブログの新規記事や、まじめな読者さんのコメントの続きに、どうにもありがたくないスパムコメントがつくことがあります。
私のところにコメントされるスパムの内容には一定のパターンがあって、おそらく発信元は同じところなんじゃないかと思っています。
その内容というのを要約すると、
①今まで異性にもてる自信の無かった男性が
②魅力的な相手と性交渉を持ったうえで
③けっこうな報酬も手に入れた
という話になります。
正直言って世の中の男性諸氏をばかにしているとしか思えないのですが、その文章がまた品性のかけらもない代物なので、腹がたつのを通り越して情けなくなってしまいます。
母国語をもっと大切に使いましょうよ。
私のブログを読みにきてくださる奇特な読者さんなら、興味本位でもリンク先を見に行かれたりなさらないとは思います。不快感を与えるようなコメントは見つけ次第削除していますが、間に合わなかったらお目汚しご容赦ください。

らす・きあ蛇足話 その50 使わないと使えなくなる

 靴屋さんの店先にウォーキングシューズの広告が出ていました。
「歩かないと歩けなくなる」
 日頃歩く機会が少ない人はウォーキングしましょうということでしょうか。
 通勤や街歩きにエレベーターエスカレーターを当然のように利用しながら、わざわざ歩く運動に時間をさくという考え方には今一つなじめません。
 世の中が便利になったおかげで、身体の丈夫じゃない人やハンデのある人もずいぶん暮らしやすくなりました。それはそれとして、能力のある人まで楽なほうに流れてていいんでしょうか。
 三階からエレベーター呼んで待つより階段をのぼったほうが省エネにもまるし、家で食べる程度の量ならイワシのわたぬきやエンドウ豆をむくことくらい自分たちでできるんじゃないか。機械にたよったり他人にまかせたりするばかりでなく、自分の体力と技能でどれだけのことができるか試し、把握し、少しは研鑽する。
 せっかく使える身体と頭をもらって生まれたのなら、日々使ってみなくてはもったいない。そんなことを考える私は少数派でしょうか。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第46回

「在校者全員の点呼は済んだ、とうかがっていましたが」
 教頭は大掃除の後でゴミをみつけられた生徒みたいな顔をした。
「宇多野先生!あなたのクラスでしょうが!」
 教頭に呼びつけられた宇多野先生は大儀そうに歩いてきたものの、視線は中空を漂っていた。あらぬほうを向いてぶつぶつ独り言をくりだす先生を見て、消防士は頭を横に振った。
「本当にもう、行方不明者はいないんですね。校内にいる生徒は全員把握できているんですね」
「当然です」
 よく言うよ。普段の集会もそうだが、生徒の出席率は八割にもならない。
 さっきまで立ちのぼっていた煙がそのまま色を染めたような曇り空から、とうとう雨が降り出した。生徒達は吹き降りにせき立てられるように教室に戻った。
「ホームルームが終了したらすぐに帰宅するように」
 教頭の声などもう誰も聞いてなかった。

 1年C組の教室にはいると、宇多野先生の目がようやく焦点を結んだ。
 先生は不機嫌そうに出席簿を開き、生徒達の点呼を始めた。
「荒田。有野。伊吹。岩岡。魚崎……」
 生徒の返事があってもなくても、かまわず同じペースで読み続けた。
「……花山。稗田。平野。葺合……葺合。立て。こっちに来い」
 黙って前へ出たキアに向かって、先生が声を荒げた。
「火災報知機を鳴らしたのはお前だってな」
 出席簿の縁を顎の下につっこまれても、キアは顔をあげることを拒み、醒めた目だけを先生に向けた。
「指示もないのに、勝手に行動しおって。騒ぎを無駄に大きくしてくれたな」
 とんでもない言いがかりだ。これにはさすがに他の生徒たちも不満げにざわめいた。
 なかのひとりの声が大きめに響いた。
「報知器が早う鳴ったおかげで、被害がひどならんですんだんちゃうんか」
 宇多野先生は血管の浮いた白目をぐりっとめぐらして生徒たちをにらんだ。
「誰だ。今ほざいたのはどいつだ」
 生徒たちは決まり悪そうにちらちらとお互いの顔をうかがった。
 先生は出席簿を両手でつかんで縦にみしみしと折り曲げた。誰も名乗り出る者がいないとわかると、台紙にひびのはいった出席簿で、ばしっと机を叩いた。
 教室は水を打ったようにしんとした。
 みんなの後ろに隠れて、うつむいた常盤が目に入った。血の気のひいた横顔が震えていた。
 僕は大きく息を吸い、短く吐いてからキアの一歩前へ進み出た。
「お前の声じゃあなかった」
 なじるように言われて肩をすくめた。
「言いたかったことは同じです。口に出そうとしたら先を越されただけで……」
 いきなり頬に打撃を受けてよろめいた。キアの腕がさっと伸びて倒れかけた僕を支えてくれた。その腕をしっかりとつかんで心で念じた。頼むからそれ以上は動くな。今は何も言うな。
 舌に鉄の味がした。唇をぬぐうと、指に薄い血のすじがついた。
 宇多野先生は今の一撃で完全にふたつに割れてしまった出席簿を教卓に放り投げた。
「今日はこれで終了だ。部活も中止。全員すぐに帰れ」
 僕は話しかけてこようとしたキアの手をそっとほどいて席に戻った。

 部屋を出て行った教師の足音は窓をたたく雨と風の音にかき消された。生徒たちはおたおたと帰り支度を始めたが、誰もが動揺を隠せなかった。
 僕の真後ろで、女子生徒たちが額をくっつけあって早口でしゃべっていた。
「バリやばいよ。さっきのウタノンの目ぇ見た?マジでプッツン来てもとうよ」
「あたしら、いったいどないなるん?」
「親に言うてみる?」
「無理!他の先生に言うたかて何もしてくれへん。おタマは病院やし」
「そやな。ちくったてバレたら、何されるかわかれへん」
「目立たんように頭下げとかな」
「もう、誰かがいらんことしてキレさすから、ええ迷惑!」
 背中に女の子たちの冷たい視線を感じた。
 教室を見まわしてキアがもういないことを確かめた。今の話を聞かれずにすんで良かったと思うべきか。事態は僕の願いもむなしく、ますますこんぐらがっていく一方だ。
 
 暴風雨警報が発令されたのは全校生徒が下校してしまってからだった。
 横なぐりの雨に傘は何の役にも立たず、家に帰りつく頃にはスラックスの膝から下がぐずぐずに濡れていた。
 母さんは泥んこになったカッターを僕から受け取って、いつになく心配そうな顔をした。
「なんか、大変やったみたいね」
「火事と地震と台風のトリプルトラブルだからね。冬服の上着を着て行かなくて良カッター、なんちゃって」
 べたな駄洒落にも普段のように軽くのってきてはくれなかった。
「担任の先生からお電話もろたわよ」
 それで家の中まで雲行きがあやしかったのか。何も無かったとごまかしても母さんは納得しないだろう。
「友達がどこに行ったかわかんなくなったり、先生がケガしたり、いろいろあったんだ。それで避難の集合に遅れてみんなに迷惑かけちゃった。先生、怒ってただろ?」
「まあ……ね。先生もかなりお疲れみたいやったけど……」
「心配かけて、ごめんなさい」
 息子がさっさと頭をさげたので、母さんもそれ以上つっこむのをためらった。僕はなんとか話題を変えられないかと思案しながら、食べ損ねた弁当を鞄から取り出した。そこで食卓に置かれた大きな紙箱に気がついた。
「へえ、見つかったんだ。洋服」
 蓋を開けて薄紙をめくると、すっきりした仕立ての女物スーツが現れた。落ち着いた青磁色の生地がクリーム色の包装紙に映えて、部屋の中がほんのりと明るくなった。
 母さんが思わず顔をほころばせた。
「店長さんが卸屋さんまでわざわざ探しに行ってくれはったんよ。どうしてもその色のサイズのあうのが欲しいてわがまま言うたら」
「旅行に間に合ってよかったじゃない。もう今週末だろ」
「……お天気が心配やけど」
「大丈夫だよ。この台風が通り過ぎれば、すっきり秋晴れだ」
 玄関からどたどたと元気な足音が聞こえた。
「えーっ、なんでお兄ちゃんのほうが先に帰ってるのぉ?ずっるーい!」
「勇!ランドセルはお玄関に置いて、すぐにお風呂場にはいりなさい!」
 僕よりもずぶ濡れになって帰ってきた妹のおかげで、その場はお茶を濁すことができた。

 遅い昼食を終えて自分の部屋にひきあげた。地震のせいか、金魚が落ちつきなく水槽のなかをくるくると泳ぎまわっていた。いつもなら餌をねだってぱくぱく口を開けてくるのに。今日は僕がのぞきこんでも、まるでそっけなかった。
 ベッドに寝転がって天井を見上げた。火事と緊急下校の通知が連絡網で流れることまでは予想していたが、宇多野先生がわざわざ電話してくるとは思わなかった。ひょっとしたら、キアの父親にも連絡を?
 言いようのない不安を覚えてベッドから身を起こした。すぐにでもキアの家を訪ねたくなったが、この天気に校区のはずれまで出かけるなんて言い出したら、母さんにまた問いただされてしまいそうだ。
 ぐずぐずと悩んでいると、父さんから電話がはいった。JRの線路が倒木でふさがれ、運行を停止しているそうだ。母さんが駅まで迎えの車を出した。その隙に僕は家を抜け出し、傘を飛ばされそうになりながら最寄りの公衆電話ボックスまで歩いた。堂島さんはちゃんと電話に出てくれた。
 今日の学校での出来事をかいつまんで説明した。刑事さんは既に消防署の初期調査の概要をつかんでいた。
「火の元は家庭科室。スプリンクラーはちょいと前の調理実習で誤作動してから解除したままやったらしい」
「玉出先生は……」

らす・きあ蛇足話 その49 リアルとフィクション

 「ラス・キア」は純然たるフィクションです。
 何の変哲もない日常と絶対あり得ない非日常のあいだの「ひょっとしたら、あったのかもしれないと思える出来事」あたりを目指しています。
 最近のメディアで、作品中に書かれているのと似たような事件が報道されることがありますが、実際の事件のどれかをモデルにしているわけではありません。
 たぶん、私が思いつくようなことは日本中の中学校でけっこう起こっていて、そのうちのごく一部が世間の知るところとなるのでしょう。
 気づかなかったふり、忘れたふりをしている大人はごまんといますけれど、サバイバルゲームは敗者はもちろん、勝者にも傷跡を残しているはずです。

らす・きあ蛇足話 その48 梅雨と台風

 現実世界で風雨が吹き荒れた翌朝。
 クマゼミの鳴き声で目が覚め、
「あれ……今頃まだ鳴いてるやつがいるよ……」
と寝ぼけたことを言って、
「これからが本番やろ」
と、家人にあきれられました。
 作品世界では台風シーズンがつづいているので、こんぐらがっちゃったみたいです。

 作品内時間は5月から始まって今10月。
 現実時間では昨年9月に連載開始して今7月。
 現実がじわじわと追いつきつつありますが、追い越すことはない予定です。
 しかし、思ったより事態がややこしくなっていて、当初予定していた1年での完結が難しくなってきました。延びると言っても1ヶ月ほどのことです。必ず完結させます。じりじりさせてごめんなさい。読者のみなさまには謹んでおわびもうしあげます。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第45回

「大丈夫……です……ちょっと煙を吸ったかも……」
 立ち上がろうとした矢先にぐらりと地面が揺れた。今度は本物だ。僕はまた悲鳴をあげてその場にうずくまった。
「おい!」
 まっすぐに駆け寄ってきた玉出先生の身体がふいにつんのめった。
 とっさに右手をついて支えようとしたはずが、腕は何の抵抗もなく、ずぶっと地面にめりこんだ。倒れた勢いのまま、顎が穴のふちにごんっとぶつかり、首が後ろ向きにあり得ない角度で折れ曲がって、そのままずるずるとずり落ちていった。
 最後に僕を見た先生の目は人形のように虚ろだった。
 僕はへたりこんだまま嘔吐して……そのあとのことは記憶していない。

 玉出先生は校舎からフェンスに向かってまっすぐ走った。そこにはピアノ線のループが仕掛けられていて、足を引っかけて倒れ込むはずの位置に落とし穴が掘られていた。頭ひとつ分のずれは先生と僕らの身長差だ。トラップを仕掛けたやつは青池へ出入りする僕らを狙っていたのだ。
「先生ならもう病院へ運ばれたで」
 返事がかえってきたことではっとした。
 いつから声に出してしゃべっていたのだろう。
 そろそろと頭をもたげると、すぐ隣にキアの顔があった。
「……死んじゃったかと思った。助りそうなの?」
「ちょうど救急車が着いたとこやったからな。間におうたと思う」
 僕らは資材置き場のビニールシートに背中をくっつけ、折り曲げた足の先をフェンスに掛けて縮こまっていた。フェンスの鉄線と丈の高い雑草の向こうに事故の現場が見えた。
 見慣れた草っぱらに黒々と口を開けた穴が異様だった。
 キアは先生が運び出されてから、草のなぎ倒された跡をたどってきたのだろう。こんな狭いすきまにわざわざ一緒にもぐりこんで、僕を見守ってくれてたんだ。
 旧校舎が風や喧噪を遮っているからだろうか。世間の物音は何となく遠く聞こえた。僕らのいるこのすきまだけ、流れる時間が異なるような気がした。
 もそもそと姿勢をかえようとして、キアの胸に肘をぶつけてしまった。
「あ、ごめん」
 キアはほっと表情をゆるめて、僕の肩に手をおいた。
「やっと落ち着いたか」
「そんなに長いことパニクってたのかな」
「いや。時間にしたら五、六分やったと思うけど……」
 すまないと言いたげに首をかたむけた。
「助けを呼んどんは聞こえてたんや。もっと早う来たかってんけど、住之江を引きずり出すんに手間取ってもてな……」
 僕は喉がからからに乾いているのに気がついた。
「僕……他にも何か、変なこと口走ってた?」
 キアは返事をためらった。つまりは、いろいろ聞かれてしまったということだ。
 疑問がふくらむ前に、はぐらかしてしまおうと思った。
「ばかみたいだろ。ゴムとかプラスチックの焼ける臭いにてんで弱くてさ。臭覚神経がどっかで誤配線されてんじゃないかって……」
「火事だけやないやろ」
 冗談ぽく話したつもりだったが、勘の鋭い友達はごまかせなかった。
「ラス。お前、震災の話がでるたんびに……」
「言っただろ!地震なんか知らないって。僕は……」
「最初のどーーんは知らへんかもな。けど、その後はどうやねん」
「その後……」 
「火事がひどなったんは、夜が明けてからや。水が出えへんとか、騒がれだしたんもな」
「……」
「地震はただの始まりやった……」
 今まで誰にも話したことはなかった。誰かに聞いて欲しい気持ちがこんなに強くなったこともなかった。話の行き着く先を恐れる気持ちもこれまでになく強くなっていたが。
 僕が黙りこくっても、キアは辛抱強く待っていた。
「小さい頃にみた夢が……」
 しぶしぶ話し始めたら、喉が痛んで声がかすれた。
「本当にあったことだと気がついたのは……四年生のことで……」
 社会見学で訪れた震災記念館だった。
「砕けて散らばった窓ガラスとか、傾いた電柱から垂れ下がった電線だとか、壁が崩れて瓦屋根だけ残った家だとか……」
 あれは幼児の空想ではなくて。
「でもその時は、前にも見たことがあるって気がしただけかもって。被害の写真から夢の中身をこじつけただけってことも……」
「自分に嘘つくな」
 キアの声は静かだったが、毅然として容赦なかった。
「四歳のチビが……そこまではっきり覚えてるわけない……」
「俺は覚えとう」
 キアは大事なものをすくい上げるように、胸の前で両手をそろえた。
「希(のぞみ)が冷たくなったんも、ばあちゃんの目が開かんようなったんも。歳なんて関係あるか。俺は忘れへん」
 そのまま握りしめた拳の関節が白かった。
「お前も、忘れたふりなんかするな」
 僕はかたく目をつぶって生唾を飲み込んだ。
「誰かの背中にしがみついていた。自転車に乗せられてたんだと思う。がたがたの道を走っていた。頭のすぐ上でばらばらとすごい音がして……ヘリコプターだったのかな。石の粉みたいなほこりや煤が舞い上がって、目と喉がひりひりした」
 前後のことはまるでわからない。一枚だけ抜き取られた紙芝居の絵のように宙ぶらりんの光景。
 身震いして目を開けた。思い浮かぶのはいつもここまでだ。その先を思いだそうとするたびに僕の心は震えあがって動かなくなってしまう。
「お前は、そこにいた。忘れるな、お前がどっから来たか」
 うなずきながらも胸がざわついていた。
 烏丸聡は小学校に入学するまで関東で生まれ育った。地震のことなんてじかに知っているはずがない。
「僕が震災を体験しているなら、常浜に住んでいた烏丸聡は僕じゃないのか?」
 僕には四歳以前の記憶がほとんどない。幼すぎたせいであやふやなのだと思っていたけれど、ひょっとしたらその頃の僕は父さんや母さんとは一緒に暮らしていなかったのかもしれない。
「それなら僕はいったい何者で、どこから来たんだ?」
 僕の「両親」は本当に僕の両親なのか、それとも……
 キアはしっかりと僕の肩をつかんで離さなかった。
 真剣な両の目がまっすぐに僕をみつめていた。
 動悸がだんだんましになって、息苦しさがおさまってきた。
 僕はキアの手に自分の手を重ねた。
「戻ろう。みんなが捜してるかもしれない」

 旧校舎の角をまがってグラウンドに出た僕らは、そこでいきなり日常的な光景を目にしてぽかんと口をあけた。
 月に一度の全校集会そのままに、生徒達がクラスごとに集められていた。教師達に囲まれ、だらだらと身体をゆすりながら、かろうじて列らしきものをつくっていた。
 いつもの集会と違うのは、本館前に二台の消防車が赤いライトを点滅させたまま駐車しているのと、そこいら中を何人もの消防士たちがせかせかと動きまわっていることだった。
 僕らはその場に立ちすくみ、全校生徒の注目を集めてしまった。
 みんなの目つきを見て自分たちの格好に気がついた。
 キアの顔は黒い煤だらけ、制服は灰をかぶって黒白のまだらになっていた。僕は胸から腹まで泥土にまみれ、ちぎれた葉と草の種を髪にくっつけたままだった。
「お前ら、今までどこにかくれとった。放送を聞いてへんかったんか」
 伏見先生がどなった。
「ラブラブしとって気いつきませんでしたぁ」
 上級生の誰かのあざけりに、どっと笑い声がわいた。
 教頭と並んで立っていた制服姿の消防士が、つかつかと近寄ってきた。
「君たち、大丈夫か。けがはないか」
 教頭が小走りに追いついてきた。
「生徒の体調は学校で把握します。すぐに養護教諭が……」
 最後まで言えずに、もごもごとことばを濁した。壬生先生の後釜はまだ赴任しておらず、保健室は鍵をかけたまま放置されている。
 消防士は疑わしげな目で問いかけた。

二十年ぶり

大学の同窓会に行ってきました。
小学校や中学校と違って、そこそこ大人になってから知り合った連中ですから、姿形がさほど変化しているわけではありません。
特に女性陣は現役でお仕事をしている人がほとんどで、みなさん実年齢より若くみえます。
どちらかというと、頭とお腹に特徴の出てくる男性陣のほうがやや不利、といったところでしょうか。

同じサークルで仲良しだった二人組の男子、実は「ラス・キア」のモデルだったりするのですが(といっても5%程度です)二十年前とかわらぬ名コンビぶりを楽しませてくれました。
特に「キア」くん、もうすぐ五十歳だというのに午前1時までばりばり働き、休日には始発のロープウェーに乗って朝飯前に山頂まで登山したとか、あいかわらずのタフガイぶりでした。

「墓守虫」で右往左往している中学生たちだって、いつかは四十歳、五十歳になるのです。仲良く同窓会というわけにはいかないかもしれませんが、それぞれの人生を可能な限りまっとうして欲しいものだと思います。

らす・きあ蛇足話その47 乗り物いろいろ

作者が自動車やバイクのことをよく知らないので、作品中に登場するのはほとんどが自分や知人友人が乗っていたことのある車種です。
ワゴンRには子供達が小さい頃に長年お世話になりました。
月極駐車場でお隣にいたのが緑のローバーミニでしたね。
イプサム240Sに乗っているのは義妹の家族。
BMWのバイクはツーリング大好きな上司の愛車です。
スーパーカブ50には免許取りたての頃に父親に運転を教えてもらった思い出があります。
名前は出していませんが、江坂と多聞が乗っていたのはプジョー406クーペ、葺合徹の社用車はダイハツハイゼットという設定です。
唯一、プリウスに乗っている人だけは周囲にはいません。住之江の母親のような知人もいませんが。

ラス・キア 子守唄墓守虫(ララバイ・シデムシ) 第44回

 本を開いて伏せたように、屋根だけが地面にのっかっている奇妙な家。
 舞い上がる砂ぼこり。ひびの入った地面から湧き出す水。
 それらの光景が目の前から後ろへと流れていく。
 鼻につんとくるにおい。目がちくちくと痛くて涙がにじむ。
 夢の世界で僕は何かを恐れている。たぶん、この次におこる何かにおののいている。 

 目を覚ましたと気がつくのに少し時間がかかった。外はまだ薄暗い。
 小六の頃からはみなくなって、すっかり忘れていた夢。なぜ今頃になって思い出したんだろう。
 それからはまんじりともせず、布団をかぶってのたうっていた。頭は冴えてしまったのに身体はだるくて動けない。目覚ましの音を何度も止めてからやっと起きだし、のろのろと着替えて味のしない朝食をとった。
 TVのニュースは隣県を中心に弱い地震が群発していると報じていた。


第七章 エンマコオロギ

 空はどんよりとして昨日よりもさらに湿度が高い。それでも、かなりの数の生徒達が長袖に衣替えしていた。
 キアは冬服の上着まで着込んで詰襟をきっちり留めていた。
 袖と裾の丈をなおしてもらったので、一学期のようにぶかぶかした印象はない。壬生先生の手仕事だ。
 僕がそばに行くと、むっつりした顔でささやいた。
「風向きが悪い。気ぃつけや」
「いやな予感でもするのかい?」
「雑魚どもが落ち着かん。ここんとこ、外では妙におとなしいしな。なんか鮫が通る間、息ひそめて隠れとうみたいやけど。ずっと抑えとれるもんやない」
 腹にずんと重いものを感じた。
 江坂は堂島さんの動きに感づいているんだ。尻尾をつかまれないように統制をかけているのだろうが、末端の連中は彼ほど慎重ではない。
「とくにこんな天気の日には、変に調子こいたんが、いらんことしよる」
 教室の反対側には数名の女子がかたまり、携帯で気象情報をチェックしながら、暴風雨警報早く出ろと騒いでいた。
 窓の外から幹を揺らす木々の音が聞こえてくると、ふだんはおとなしい生徒達ですら、なんとなくそわそわと落ち着かなくなるようだった。
 
 三限目の終了間際、住之江の母親が駐車場に現れた。空模様と息子のいる部屋とを見比べながら、そそくさとプリウスを運転して出て行った。
 これまで母親が席をはずす時には教師が交代で番をしていたはずなのだが、この日に限って引き継ぎがうまくいかなかったらしい。
 四限目、一年C組は本館二階の音楽室に移動することになっていた。チャイムが鳴ってもまだ半数ほどの生徒しか揃わなかった。
 遅刻常習犯の音楽の先生を待っていると、一階廊下や階段あたりからざわざわと物音が聞こえてきた。最初は遅れて来た同級生達かと思った。
 それにしては走りまわっている人数が多い。笑い声にまじって、なんだかせっぱ詰まった不穏な声も聞こえた気がした。おかしいと思ったときには騒ぎは音楽室のすぐ外まで迫っていた。
 甲高い悲鳴が廊下にこだました。
「やめて。助けてぇええ」
 叫びながら飛び込んできたのは住之江だ。譜面台をひっくり返し、同級生を突き飛ばしながら、ばたばたとゆるい段差を走って教室の奥につきあたった。五線譜のペイントされた黒板にべたっと張りついて大きくあえいだ。
 あとから入室しようとした女子生徒が、長い髪を後ろからつかまれてのけぞり、そのまま尻餅をついた。ばさばさと床に落ちたノート類を踏み散らかして、ふたりの男子上級生が乗り込んできた。
 キアがさっと立ち上がった。僕はあわてて後ろからその腕にしがみついた。直後に後悔した。また投げ飛ばされる……。
 身を固くして衝撃にそなえたが、何事もおこらなかった。キアは肩越しに僕を見つめただけだった。
 一年生たちが凍りつくなか、淡路ともうひとり、同じくらいごつい体格の二年生は、出入り口を少し入ったところで脇に寄って立ち止まった。名前を知らないほうがドラムセットを蹴飛ばして派手な音をたてた。
 住之江は必死の形相であたりを見まわしたが、まともに頭を働かせていないのは明らかだった。わけのわからないことを口走りながら壁づたいによろよろと移動し、今通ってきたばかりのドアを抜けて出ていこうとした。
 すれ違いざまに淡路がその襟首をつかんだが、すぐに投げだすように手を離して耳障りな笑い声をあげた。
 廊下の向こうから何人ものはやし立てる声が聞こえた。
 逃げまどう住之江の後を追って、騒ぎは三階に移動していった。
 捕まえることなんか、はなから考えてない。追い立てられるやつの反応をおもしろがっているだけなんだ。
 僕の手のなかでキアの腕にぐっと力がこもった。
 僕はその耳に顔を寄せてささやいた。
「待ってくれ……」
「ほっとくんか」
「先生を呼ぶのが先だ。ひとりで先走るな……」
 何か言いかえそうとしかけて、キアはひくりと小鼻を動かして眉をひそめた。
「……燃えとう」
「え……」
 思わず手の力をゆるめてしまった。キアは僕の腕をふりほどいて廊下に走り出た。壁際の火災報知機に拳骨を叩きつけ、その下の消火器をつかみあげて階段を駆けのぼった。
 けたたましい非常ベルの音が学校中に響きわたった。
 キツネ狩りを見物しに集まってきていた野次馬たちが、ぎょっとしてあたりを見まわした。
 僕はキアを追って三階の廊下を走ったが、家庭科室の手前で真っ黒な煙と猛烈な刺激臭に襲われた。
 煙は窓から吹き込んだ強風にあおられて勢いづき、あっという間に廊下中に充満した。
 煤をかぶって目を赤く腫らした上級生達が煙幕から飛び出してきた。
「冗談やないで!」
「あのボケ、まじ、いってもとうわ」
 僕の肩にぶつかったことも無視して、悪態をつきながら逃げていった。
 キアは臆さず、消火器のピンをぬいてかまえると、黒煙のなかにずんずんとわけいった。すぐに家庭科室の入り口とおぼしきあたりからガスの噴出する音が聞こえてきた。
 僕はといえば、建材の焦げる臭いをかいだとたんに麻痺したように動けなくなってしまった。背後に他の生徒達が追いついてきた。あるものは事態に仰天して回れ右をし、あるものは興奮して大声をあげ、その場は騒然となった。大混乱からなんとか抜け出さなければと、重い一歩ふみだしたところで身体がぐらりと傾いた。
 後にして思えば、床にころがったグラスかなにかを踏んで足をすべらせただけだったのだ。しかし、そのときの僕にはまるで地面が揺れ動いたように感じられた。昨夜の悪夢が目の前の黒煙に重なり、うずまきながら押し寄せてきた。たまらず顔を覆って膝をついた。
「おい、どないした?」
 いきなり肩をつかまれて飛び上がった。目の前には泥の筋を残した白っぽい床。煤と埃が喉をふさぐ、いがらっぽい空気。あの人がいない。僕を置いてどこかへ行ってしまった。取り残された。泣きたいくらい心細くなって、気持ちのままに走り出した。ここでじっとしているようにと言い含められたことなどすっかり忘れていた。いない人を呼びながらドアからドアへ渡り歩き、ふらふらと廊下を伝って下の階へ、隣の建物へ……。

「烏丸!」
 野太い声に怒鳴りつけられて我に返った。ここはどこだ?
 僕は雑草と枯れ草がいりまじる地面にはいつくばってあえいでいた。
 ここは中学校だ。いつのまにか旧校舎裏の茂みに来ていた。どこかでけつまずいて、腹這いになったまま移動してきたらしい。振り向けば旧校舎あたりから僕のいるところまで、押し倒された雑草の跡がぐねぐねと蛇のように続いていた。
 玉出先生が数メートル離れて立ち、幽霊にでも出会ったような顔をして僕のようすをうかがっていた。色あせたジャージが風にはためいた。
「おい……どないした……気分悪いんか……俺がわかるか?」
 なんとか上半身を起こした。消防車のサイレンが聞こえる。ぐんぐん近づいてくる。では火事は現実なのだ。

2周年

おかげさまで、このブログを立ち上げてから丸2年になりました。
ブログの運営はおろか、個人のサイトを持つこと自体はじめての経験でしたが、ともかく「書きたいことを書き続けたい」気持ちでここまでやってきました。
おかげさまでアクセス数も5000を超えています。
キリ番イベントなど開催するなんてがらじゃないのでカウンターもほったらかしですが、毎週律儀に読みにきてくださる読者さんたちにはとても感謝しています。
みなさんのおかげで三部作、なんとか完結できそうです。
その先のことはまだ何も考えていませんが、今はともかく目の前のゴールをめざします。

らす・きあ蛇足話その46 ワル

「脚高蜘蛛」「鳥杜」を読んでくださった方に、
「悪事の内容が生ぬるい。悪役にもっとしっかり悪いことさせろ」
という趣旨の感想をいただいたことがあります。
そこで「墓守虫」では一所懸命、悪いやつを悪く書く努力をしています。
その影響で大幅に出番を増やしたのが江坂くんです。
夏の海辺での初登場シーンが気に入って、そこからどんどんイメージがふくらんでいきました。
成り行きや捨て鉢ではなく、自分の将来設計を「悪」と見定めた男の子です。
彼を主人公にした短編ネタまで思いついてしまったのですが、これを本気で書くとR18指定になってしまうので、もうしばらく寝かせておこうと思っています。

性懲りもせず

毎度お世話になっております、アルファポリスさんのところで「ミステリー小説大賞」に「脚高蜘蛛追跡」をエントリーしました。
全面改稿しなければと考えている作品を宣伝するのってどうかとも思いますが、この際なるべくたくさんの人に感想をいただいて、今後の参考にさせていただきたいという趣旨でご理解ください。
それでもやっぱり、投票してもらえると、とってもうれしいです。正直な話。

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